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〈出典〉ADA(American Dental Association) Fluoridation Facts (1999)
 翻訳:山下文夫(宮崎県子供の歯を守る会),川崎浩二(長崎大学歯学部)ほか

【質問19】
 歯牙フッ素症とは?

●解答
 歯牙フッ素症とは歯の表面の変化であり、過剰のフッ素を乳幼児期からエナメル質が形成される時期まで摂取することが原因になります。歯牙フッ素症発症のリスクは幼児のフッ素製剤の適正利用を厳密に管理することで減少させることができます。

●解説
 歯牙フッ素症は若年期に歯が作られる期間にエナメル質形成が阻害されることによって起こります(104)。第三大臼歯(親知らず)を除く永久歯のエナメル質は生まれたときからおおよそ5歳くらいまでに形成されます。エナメル質が完全に形成された後に過量のフッ素を摂取しても歯牙フッ素症は発生しません(131)。児童や大人になってからは歯牙フッ素症は発生しません。歯牙フッ素症は歯が萌出してからでないと明らかにはなりません。歯牙フッ素症は歯肉のなかで歯が作られている間に起こるので歯が生えてから発症するものではありません。歯牙フッ素症の程度を分類する方法はいくつかあります。それらのなかでディーンが提唱した分類法は最も良く用いられており、等級を簡単に図に表すことができます(132)。

表3 ディーン(H. T. Dean)による歯牙フッ素症の分類 1942年(132)分類範疇−エナメル質の状態

  正常滑らかで、光沢があり、薄いクリーム状の白色の透明感のある表面
  疑問2〜3の白紋または白斑
  軽微小さな不透明な、白紙のような領域が存在し、その面積が歯面の25%以下
  軽度不透明な白濁が歯面の50%以下を占める
  中等度全歯面が侵されている。咬合面に顕著な咬耗。茶褐色の着色が認められることがある
  高度全歯面が侵されている。不連続あるいは合流した窪み

 ディーンの歯牙フッ素症分類を用いる場合、個人の口腔内の歯牙は、表3に示す通りに数値化されます。個人のフッ素症指数は最も重い2歯以上のスコアーをあてます。
 Very mild(非常に軽度)からmild(軽度)のフッ素症は歯の機能になんら問題なく、むし歯に対して抵抗性があると思われます。このタイプの歯牙フッ素症はそれを有する個人にも、一般の人にもすぐにはそれとわからないもので、それを判断するには通常訓練を受けた専門家でなくてはわかりません。それとは対照的に中等度から重度の歯牙フッ素症は歯の色の変化や表面形態の不正が特徴的です。多くの研究者は高度に進行した歯牙フッ素症の審美的な影響は機能的な問題よりも大きいと考えています(74)。米国環境庁は歯牙フッ素症の問題点は健康の面よりも審美的な面であると言っています。歯牙フッ素症の子供や大人を対象とした心理上の問題点についての研究はほとんどありません。おそらく歯牙フッ素症の大半を占める軽度またはきわめて軽度の症例の人々はあまりその状況を気にしていないためと思われます(54)。1986〜1987年に米国国立歯科衛生研究所が行った米国の学童の調査によると、ディーンの分類を用いた歯牙フッ素症は22.3%の児童にみられます(54)。これら児童達はすべてのフッ素供給源(フッ素添加水道水、飲み物、フッ素入り歯摩剤、食事)からフッ素を摂取しています。
 フッ素症のタイプの罹患率は、

  Very mild fluorosis(極めて軽度)17.0%
  Mild fluorosis(軽度) 4.0%
  Moderate fluorosis(中等度) 1.0%
  Severe fluorosis(重度) 0.3%

 中等度ないし重度のフッ素症はフッ素症全体のほんのわずかな部分(6%)を占めています。言い換えると、フッ素症全体の94%は極めて軽度または軽度のフッ素症です(図2参照)。栄養学的に見るとフッ素は正しく摂取されるなら安全で効果的なものです。推奨される飲料水中のフッ素濃度は0.7〜1.2 ppmであり、これはむし歯を最大限に予防するフッ素濃度であり、同時に軽度の歯牙フッ素症が起こりうる最小限の濃度です(54)。
 全ての公衆衛生的方法と同じように水道水フッ素化の効果とリスクについて検討されています。水道水フッ素化の効果については本稿の効果のセクションで詳細に述べています。また、水道水フッ素化の安全性については本章の後のほうで詳しく論じています。歯牙フッ素症発生のリスクについては、至適濃度のフッ素添加水を摂取しており、他からフッ素を摂取しない場合で10%の子供達に極めて軽度のフッ素症が発生することが科学的に証明されています。表3に示すように、極めて軽度のフッ素症とは、不透明、又は白紙状の部分が歯の表面の25%未満に見られる場合と定義されています。極めて軽度の歯牙フッ素症を発現するリスクよりもその個人のむし歯が少なく、その結果、治療費がかからないという利益の方に重きを置くに違いありません(4,5)。歯牙フッ素症よりももっと大きな審美的問題をおこすむし歯になる方がよいかどちらを選びますか(134)。

写真2 重度のむし歯軽度の歯牙フッ素症

 1994年、最新の5つの報告によると水道水フッ素化が原因となる歯牙フッ素症発生の割合は13% です。この ことは水道水フッ素化を止めれば歯牙フッ素症の13%が減少すると言うことです。
 つまり、大部分のフッ素症はフッ素添加水道水以外の不適切なフッ素摂取によるものと考えられます(このことについての追加情報は質問20でも取り上げています)。今日、見られる歯牙フッ素症のタイプのほとんどは軽度か極めて軽度に分類されます。米国における水道水フッ素化地区と非フッ素化地区の歯牙フッ素症の有病率は60年前に行われた調査よりも高くなっていますが、水道水や食品からのフッ素の摂取量は当時と余り変化していないので、子供のフッ素症発生のリスクは、不適切なフッ素含有歯科関連製品の使用によるものと思われます。米国歯科医師会が推奨しているように、そのような歯科関連製品に注意書きをすることによりフッ素症発生のリスクをかなり減少できます(74,96)。

4) Dean HT. Endemic fluorosis and its relation to dental caries. Public Health Reports 1938; 53(33.: 1443-52.
5) Dean HT, Arnold FA, Elvove E. Domestic water and dental caries. Public Health Reports 1942; 57(32.: 1155-79.
54) US Department of Health and Human Services, Public Health Services. Review of fluorid.: benefits and risks. Report of the Ad Hoc Subcommittee on Fluoride. Washington, DC; February 1991.
74) Institute of Medicine, Food and Nutrition Board. Dietary reference intakes for calcium, phosphorus, magnesium, vitamin D and fluoride. Report of the Standing committee on the Scientific Evaluation of Dietary Reference Intakes. Washington, DC: National Academy Press; (In press).
96) National Research Council. Health effects of ingested fluoride. Report of the Subcommittee on Health Effects of Ingested Fluoride. Washington, DC: National Academy Press; 1993.
104) Whitford GM. The metabolism and toxicity of fluoride, 2nd rev. ed. Monographas in oral science, Vol. 16. Basel, Switzerland: Karger; 1996.
131) Horowitz HS. Indexes for measuring dental fluorosis. J Public Health Dentistry 1986; 46(4): 179-183.
132) Dean HT. The invesgation of physiological effects by the epidemiological method. In: Moulton FR, ed. Fluorine and dental health. American Association for the Advancement of Sciencs, Publication No. 19. Washington DC; 1942: 23-31.
134) Horowitz HS. Fluoride and enamel defects. Adv Dent Res 1989; 3(2): 143-6.




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