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地域保健医療福祉分野での原子力災害対策の
実践的な活動の展開とその検証

傷ついた関係の修復を図るために
ー不信の連鎖をみんなで解くー

目次

研究の紹介

研究課題

現場で活用できるツールの開発

(放射線便利帳や学習用ウエッブサイトはこちらから)

メンバー

(連絡先はこちらから)

保育士の皆様へ

放射線生物学研究者からのメッセージ

研究の紹介

『リスク・コミュニケーションの手法を活用した地域保健医療福祉分野での原子力災害対策の実践的な活動の展開とその検証に関する研究班(H25-特別-指定-029)』の概要

  平成23年3月の東京電力福島第一原子力発電所事故以降、保育士・保健師・医師等医療関係者(以下、保健医療福祉職)にとって、放射線に関わる問題に最前線の現場として対峙することが求められています。もちろん、放射線の専門家が役割を果たすことが必要ですが、そうであっても、保育所の現場、地域保健の現場、地域医療の現場で放射線について問われたり、判断を求められることは避けては通れないでしょう。
 このような現場での対応は、保健医療福祉職にとって困難を伴うものです。その理由として、放射線リスクを理解することが困難なことがあげられています。しかし、問題はそれだけではなく、放射線リスクの知識が十分にあるだけでは、課題が解決できず、大きな限界があることだと思います。
 この課題に向き合うには、コミュニケーションの問題も考える必要があります。コミュニケーションの問題を扱うには、理論的な分析だけではなく、それを実践していくことが不可欠です。要するに簡単には解決できない難問だと考えられます。
 この研究班ではこれまでの各国でのリスク・コミュニケーション活動の知見を踏まえ考え方の整理を試みるとともに、地域での実践的な活動にも基づき、この難問の解決策を探りました。
現場からの意見や疑問を重んじ、現場の方々がこれまで置かれてきた状況がもたらした複雑な感情にも配慮しつつ、より人に近いテーマを意識した研修プログラムは現場で受け入れていただけ、モデルとして提示できたと考えています。
総括報告書(PDF, 385kB)PDF

研究課題

地域での保健福祉活動の課題と対応

課題とその解決策の模索

 原子力災害を経験された地域では、(1)リスク認知の主観性に基づく意見の多様さ、(2)相場観の醸成の困難さに基づく判断分析の難しさ、があると考えられます。これらは、放射線リスクの特性がもたらすリスクへの対応の困難さに加えて、わが国でこれまで経験がなかった原子力災害が持つ特性により、その対応の困難さが増していると考えられます。
 放射線リスクへの感じ方などは、現場の方々がこれまで置かれてきた不条理とも思える状況によりもたらされてきた面が否定できないと考えられます。それらの経緯で生じた感情を扱うことが容易ではなく、その感情的なあつれきの解決に戸惑いながら時が過ぎているとも考えられ、表面的な平静さが取り戻されているにも関わらず、感情を扱うことの重要性が減少していないとも考えられます。このため、このような困難さへの特別な配慮が必要だと考えられます。
 政府機関が提供する資料は放射線に関する科学的事実を伝えるだけではなく、原発事故に向き合い、それにより社会にもたらされてきた課題を扱うように工夫されてきています。しかし、現場での様々な場面における疑問点を考える材料が今なお、不足しており、保育士研修ではそれを求める声が強い現状にありました。また、時間の経過や地域での放射線対策が進むにつれ、バランスを考え保育施設での放射線対策を緩和することが課題となっていますが、その判断が現場の管理職の負担となっています。保育施設は元々子どもの側に立った視点で子どもへのリスクを小さくしたいという気持ちが関係者に強いと考えられます。その気持ちがより強い保護者が集う保育施設では、施設長への負担がより増す構造にあると考えられます。このような施設では、特に施設長の判断の負担の軽減策が求められます。
 現場での問題には簡単に正解が与えられません。そもそもリスクとの付き合い方は、主観性やそれぞれの事情が関係するので、関係者全てが納得するような正解が存在しないこともあり、問題の複雑さからも社会心理学やコミュニケーション理論の知見を踏まえた対応が必要となります。
一方、被災地以外では、対策の実施により受ける線量が小さくなっていることによる関心の低下があり、そのことが被災者の生活再建の阻害要因ともなりえることが懸念されます。

研修の実践的展開

 これまでの取り組みを踏まえ、実践的な活動を展開し、それがそれぞれの現場で受けいれられるかどうかを検証しました。このうち、福島県での保育士研修は、現場の意見を参加者で共有し、その課題を考える内容とし、多機関間巻き込み型で様々な社会資源の活用をイメージできるようにして実施しました。
その結果、研修の参加者からはポジティブな反応を得ることができ、自治体からの要望もあり、今後も、この方向性で研修が継続することになったことから、試みた方法を受け入れていただけたと考えられました。この研修会では、現場の実情に基づき研修へのご要望を多くいただいており、それらのご要望にどう対応するかが今後の課題であると考えられます。

重要な地域の資源としての地域の医師会

 地域の人々やオピニオンリーダーを支える役割を果たしていると考えられます。
 地域の医師が果たすべき役割を考慮した地域の医師向けのサポート活動が求められることから、その役割の整理を試みました。

地域での保健福祉活動の課題と対応に関する分担研究報告書(PDF, 1.3MB)PDF


地域活動の実践的展開

放射線測定を活用した地域での放射線リスクコミュニケーション支援

福島市における水田水中、土中の微量放射性セシウムの分析による稲の放射線対策支援を通じた放射線リスク・コミュニケーション支援
 避難指示解除準備区域等への帰還のための汚染状況事前調査と健康予測評価支援のための冬期モニタリング方法の開発
 白河市における幼稚園・保育園における放射線対策支援
 個々の住民の内部被ばくの測定値に基づく放射線リスク・コミュニケーション支援

地域活動の実践的展開に関する分担研究報告書(PDF, 1.4MB)PDF


地域保健活動の一環としての放射線リスク・コミュニケーションのあり方

 帰還に向けた放射線リスク・コミュニケーションに関する施策パッケージなどこれまでの国の取り組みを題材とし、ここまでのリスク・コミュニケーションの取り組みでの課題を論点整理しました。 これまでの国の取り組みは、正確な情報を広く行き渡らせることを主眼としているように思われます。双方向のコミュニケーションも重視されるようになってきましたが、リスク・コミュニケーションを、放射線に対する健康不安を解消するための取り組みと位置づけていることが、コミュニケーションの障害になっていると考えられます。
 帰還に向けた放射線リスク・コミュニケーションに関する施策パッケージでの「基本的考え方」の大きな特徴は、リスク・コミュニケーションの担い手として、相談員を前面に打ち出していることです。放射線以外の問題も含めて総合的に対応するために、専門家よりも身近な、これらの人々が住民の声に耳を傾けることは重要であり、地域保健医療福祉に係る専門職は相談員の有力な候補と目されています。しかし、保健師等を相談員とすることには問題が多く、通常の地域保健活動の中で住民の聞き役に回り、必要に応じて住民と専門家・市町村関係者との橋渡しをする形にしたほうが現実的だと考えられます。実際、住民サイドの相談員を別途設けるやり方で実績をあげている例があり、地域の実情に応じて最適な形を模索することが重要だと考えられます。

地域保健活動の一環としての放射線リスク・コミュニケーションのあり方に関する分担研究報告書(PDF, 381kB)PDF


カードゲーム活用

 一昨年度の研究から、コミュニケーションを円滑にすすめるためには、教科書やパンフレットといった情報提供を主たる目的とした媒体以外に、コミュニケーションをサポートするための媒体があってもよいと考えられました。また昨年度開発した媒体(カルテットゲーム)の試用時点で、入手できるよう要望があったため、媒体内容をより詳細に説明したパンフレットを作成しました。また、学校現場での利用を考慮し、小学生向けに改変しました。放射線の物理的な性質など技術的な内容は文部科学省HPに公開されている副読本に沿っています。教材の効果評価については、今後の課題です。

カードゲーム活用に関する分担研究報告書(PDF, 193kB)PDF


quartettquartett

遊び方

YouTubeで動画で示されています

大人用

カード(PDF, 1.1MB)PDF(平成24年度の研究班の成果に基づきます)
カードリスト(PDF, 220kB)PDF(平成24年度の研究班の成果に基づきます)
説明用パンフレット表(PDF, 0.9MB)PDF
説明用パンフレット裏(PDF, 1.1MB)PDF

小学生用

カード(PDF, 1.1MB)PDF


環境経済学的な検討

厚生経済学的アプローチの考え方 ?リスク・ゼロがない状況での意志決定?

 ある程度の被曝が避けられない中では、1 人1 人が自分で危険の程度を判断して行動を決めなければならなくなります。受け入れられるリスクレベルが小さくなると、放射線リスクだけでなく、他のリスクでも明確な閾値が示すのは困難となり、どこまでの危険を受け入れるかについての意思決定をしなければなりません。この意志決定は、個人だけでなく、学校や保育園などの公共施設は、児童や生徒にどの程度の安全を提供するかを決めなければならないことから、公共的な意思決定が求められることになります。
 公共的な意思決定では、公平性の側面が極めて重要だと考えられますが、その一方で効率性も無視できないことがあります(難しい問題です)。そこで、効率性を判定する道具として、費用便益分析を用いて判断の材料の作成を試みました。もっとも、効率性は公平性と対立することがあり、両者を統一的に評価する公共政策評価論は確立していません。要するに、費用便益分析は、公平性の問題が大きい場合には、適用できないという限界をもっています。
本研究の目的は、保育や地域保健分野での、放射線防護上の、日常の悩み・課題の解決に役立つ判断の基準を提供することです。個人の意思決定と、規制基準を決めるといった政府の意思決定との間の、どちらかといえば個人の意思決定に近いところです。このアプローチには大きな限界を伴いますが、それでも考えることに役立つのか、皆様にご判断いただければと思います。詳しくはこちらをご覧下さい。
 
厚生経済学的アプローチの考え方に関する分担研究報告書(PDF, 61kB)PDF


現場で活用できるツールの開発

放射線対策に関連した業務やその業務遂行に必要な学びは、日常の保健医療福祉活動を圧迫せずに実施する必要があります。このため、学習の負担感を減らし、関連業務への従事における負担感の軽減を目指し、ツールを開発しました。

印刷媒体と電子版資料

 

 保健福祉現場での関連業務を支援するために現場の意見に基づき、場面別に使える資料を作成しました。この資料は、保健師等の住民への対応者を対象とした集合形式や遠隔形式での研修ツールキットや保健センター等でのマニュアル等として現場で実践的に活用されることを目指しています。

保健師・保育士向けの資料

研修のフォローアップニュースレター(平成26年3月発行、福島県内の全保育施設に配布済み)(PDF, 1.6MB)PDF放射線便利帳(日常業務で使える手引き、平成26年3月初版発行、平成26年6月第2版発行)を作成しました。これらは、福島県内の全保育施設に配布しています。
放射線便利帳(第二版)の一括ダウンロードPDF(PDF 8.0MB)は、こちらから。
最新版はこちらからご覧ください。
 右の図は放射線便利帳を示しています。研修に参加下さった、保育士の方からのご質問やご意見に基づき、日頃の生活での放射線への疑問を取り上げています。

正誤表・改訂履歴・放射線便利帳のページ分割版

学習サイト

現場での問題に取り組むための基礎的な知識を確認する学習サイト(試行版)を構築しました。学習サイトには知識を確認するためのテスト問題や用語集、研修資料としても活用できる題材(自然遊び:落葉を使ったたき火は大丈夫?、虫に触って大丈夫、除染の効果評価:側溝の除染の効果は?、線量の将来予測、モニタリング:風が吹くとモニタリングポストの値が変わるのでは?、GM計数管による土壌中の放射性セシウム濃度の推定)などを掲載しています。このサイトは、福島県での研修などで参加された方々からいただいたご質問に基づいて作成していますが、閲覧者からいただいたフィードバックに応じて今後も内容を見直していく予定です。

メンバー

研究代表者

 山口 一郎 / 国立保健医療科学院 生活環境研究部

分担研究者

 欅田尚樹 / 国立保健医療科学院 生活環境研究部
 志村勉 / 国立保健医療科学院 生活環境研究部
 奥田博子 / 国立保健医療科学院 生涯健康研究部
 堀口逸子 / 長崎大学東京事務所(広報戦略本部)
 熊谷敦史 / 福島県立医科大学放射線健康管理学講座・災害医療総合学習セ ンター
 伴 信彦 / 東京医療保健大学
 松田尚樹 / 長崎大学 先導生命科学研究支援センター
 岡 敏弘 / 福井県立大学経済学部

研究協力者

 荻野晴之 / 電力中央研究所 原子力技術研究所 放射線安全研究センター
 王子野 麻代 / 日医総研

連絡先

電子メールでのご連絡をお願いします。
ndsupport@niph.go.jp
ご質問の内容によっては、数日以上のお時間をいただく場合や回答できない場合があります。
また、申し訳ありませんが、回答の時間指定はお受けできません。


福島の雪の風景

写真の著作者:村田信一

保育士の皆様へ

 このたびの災害・事故により今までの当たり前の日常が一変し3年が経過しました。事故後から出会わせていただいた県下の保育士さんから、「自然とかかわる体験の減少」,「子どもにふさわしい生活時間やリズム確保が困難」,「飲料水や食材の不安」,「悩みを抱える保護者の増加」等、日々の保育を通じ当惑する事象の山積と向きあう日々であることをうかがいました。子どもの健やかな成長のために、新たな学びの必要性、対応の工夫に邁進され、子どもや保護者の立場に立って、最善策を探ろうと、研修会をはじめ様々な機会に積極的に出向き、保育へ反映させる工夫を続けているみなさまのご尽力にこころから敬服をいたします。
 この3年間を振り返っても、長かったと感じる方、あっという間だったと感じられる方、様々であるように、非日常の出来事から不安,怒り,悲しみ等を体験された人にとって、その和らぎが得られるには、時間、知識、具体的変化、支え(人、物、方策など)など、影響をもたらす要因も人により多様です。また、時間のかかり方にも個人差があります。
 日々、お子さんの成長過程に寄り添う立場の保育士の皆さん自身が、納得と安心ができ、自信をもって保育に従事していただけることが、子どもさんや保護者の方の安心にも寄与をもたらすことと思います。その保育士さんの方々のバックアップとなるのが専門家の存在です。国内でも前例のない出来事の中、保育に邁進されるみなさんのご苦労に少しでもお役に立てることを考え続けてまいりたいと思います。些細な疑問も丁寧に向き合う専門組織や人材を知り、有効に活用をしていただきながら、未来ある子どもたちのために、この経験を通じてより質の高い保育の提供者となっていることに自負をもっていただきたいと思います。(国立保健医療科学院 奥田博子)

放射線生物学研究者からのメッセージ

 ヒトの放射線影響は、広島、長崎原爆被爆者、チェルノブイリ事故被災者、高自然放射線地域の住民の疫学調査によって解析されています。しかし、福島第一原子力発電所の事故で問題となる低線量・低線量率の放射線による人への影響については疫学単独での評価が難しく、放射線影響を理解するために実験動物や培養細胞を用いた実験研究により検討されてきました。事故当初は、科学的知見がどのようなメッセージとしてとらえられるのかの十分な配慮がなく、放射線に対する不安を引き起こしたことは大変残念なことです。DNA、細胞、組織、個体レベルと様々な段階での研究成果が人の放射線影響を考える上でどのような意味を持つのか、また研究者間で共通の認識として確立されていることなのかどうかを考慮して説明することが大切です。これまでも多くの研究者が放射線の生物への影響を解明するために研究を行ってきました。原発事故後には、研究者間の情報共有をさらに強化し、低線量放射線影響の解明に取り組んでいます。私は放射線影響研究に従事する研究者の一員として研究や支援活動を通して、今後も福島復興に貢献したいと思います。(国立保健医療科学院 志村勉)

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