No.18013 スイセンによる食中毒

[ 詳細報告 ]

分野名:自然毒等による食中毒
衛研名:名古屋市衛生研究所
報告者:食品部 中島正博
事例終息:事例終息
事例発生日:西暦 2018年 1月18日
事例終息日:西暦 2018年 1月24日
発生地域:名古屋市
発生規模:喫食者数2名
患者被害報告数:2名
死亡者数:0名
原因物質:リコリン、ガランタミン
キーワード:スイセン、リコリン、ガランタミン、バーニャカウダ、嘔吐、食中毒

概要:
2018年1月18日、名古屋市内のレストランにて提供された有機野菜のバーニャカウダを喫食した女性客2名が約45分後に嘔吐したため、料理長が大学病院へ同行し、血液検査、点滴を受けさせた。原因は当該施設に有機野菜とともに飾り用に納入されたスイセンを料理長がネギと間違えてバーニャカウダに使用したためであった。当該施設に残っていたスイセン数株についてLC-MS/MSを用いてリコリン、ガランタミンの定量を行ったところ、リコリンが6.7-14.7 µg/kg及びガランタミンが2.6-4.8 µg/kg検出された。

背景:
スイセンは毒性成分としてリコリンやガランタミン等のアルカロイドを含んでいる。国内において、球根や葉をそれぞれ玉ねぎやニラの葉と取り違えた誤食による食中毒が複数発生している。リコリンやガランタミンは熱に安定であるため、調理による分解は期待できない。喫食後30分以内の短い潜伏期間の間に悪心、嘔吐、下痢等の食中毒症状が見られる。

地研の対応:
1月22日、当所に搬入されたスイセン数株についてLC-MS/MSを用いてリコリン、ガランタミンの定量を行ったところ、リコリンは6.7-14.7 µg/kg、ガランタミンは2.6-4.8 µg/kg検出された。また、実際に提供された料理では、蒸し器にて2分ほど蒸す過程があったため、蒸し調理によるリコリン及びガランタミンの損失実験を行ったところ、それぞれの損失は0.9%及び0.3%であり、蒸し調理によるリコリン、ガランタミンの減衰はほとんどないことが判明した。

行政の対応:
1月19日に、生鮮食品、開封した加工食品を廃棄の上、調理場の清掃を徹底すること、トイレの清掃・消毒を十分に行うこと、必要に応じ求める報告を行うこと、他の利用者から体調不良に関する情報が寄せられた際は確実に報告することを指示した。1月20日、調理場内にて生鮮食品、開封食品の撤去と清掃状況を確認した。社長、料理長、調理従事者2名に対し衛生教育を実施、有毒植物の誤食による食中毒事例について説明し、改めて提供に至るまでの注意と改善を指示した。社長と料理長より、仕込み品の使用期限のルール化をはじめグループの衛生管理全般について、現状の見直しと改善を図る旨の申出を受け、実施後の確認とルールの検証を繰り返すことが重要である旨を伝えた。なお、当該施設は22日、23日において自主休業を行った。

原因究明:
当該施設に有機野菜とともに観賞用のスイセンが納入された。料理長がスイセンの花を含む先端部分を切り落とし、野菜用コールドテーブルにて保管したため、料理時にネギと間違えて提供してしまったことが原因である。

診断:
有機野菜のバーニャカウダを喫食した女性客2名が約45分後に嘔吐した。その後当該客からアレルギーが出るようなものはないかと聞かれ、有機野菜の中にスイセンが含まれていることに気が付いた。すぐに大学病院まで料理長が同行し、女性客2人について血液検査及び点滴をしてもらった。その時の症状としては嘔吐、腹痛、発熱(37~37.5℃)、悪寒等の症状であった。1月19日9時、当該施設を経営する社長及び料理長が保健所(現保健センター)に来所し、食中毒の報告がなされた。

地研間の連携:
なし

国及び国研等との連携:
なし

事例の教訓・反省:
なし

現在の状況:
当所では多種類の自然毒の標準品を保持しており、また、リコリン、ガランタミン分析法については新たに開発していたため、迅速な対応が可能であった。

今後の課題:
当所で保持していない自然毒、標準品が販売されていない自然毒による食中毒に対応するため、TOF-MSなどの精密質量分析計の導入が必要である。

問題点:
なし

関連資料:
杉浦ら, 食品衛生学雑誌, 56, 108-113 (2015)