No.21008 埼玉県内で発生したastA保有大腸菌O7:H4を原因とする食中毒事例

分野名:細菌性食中毒
衛研名:埼玉県衛生研究所
報告者:食品微生物担当 鹿島かおり
事例終息:事例終息
事例発生日:2020/06/26
事例終息日:2020/07/01
発生地域:埼玉県八潮市
発生規模:
患者被害報告数:2,958名
死亡者数:0名
原因物質:Escherichia coli O7:H4
キーワード:病原性大腸菌、astA、海藻サラダ、学校給食

概要:
 令和2年6月28日、医療機関から管轄保健所に「八潮市内の複数の小中学校の児童生徒が、腹痛及び下痢等の食中毒様症状を呈して受診している」旨の通報があった。患者は同市内の小中学校の児童、生徒及び教員並びに教育委員会の職員だった。同市は、市内全小中学校の給食を市内の飲食店営業者に委託しており、給食を原因とする食中毒が疑われた。調査の結果、患者便14検体、検食2検体(いずれも6月26日提供の海藻サラダ)からastA保有大腸菌O7:H4が検出され、食中毒と断定された。6月26日の給食喫食者6,762人中、喫食後2時間以上経過後に下痢、腹痛等の症状を呈した者は2,958人であった。

背景:
 1996年に大阪での集団食中毒が報告されて以降、astA以外に特徴的な遺伝子を持たない大腸菌が患者から共通して検出されたことによる、食中毒事例が各地で報告されている。astAが産生する腸管凝集付着性大腸菌耐熱性毒素の毒性は明らかではない中、本県においても喫食者約7,000名、発症者約3,000名に上る、学校給食を原因とする大規模食中毒が発生した。

地研の対応:
 保健所の依頼に基づき、患者、従事者及び食品の食中毒原因検査を行った。

行政の対応:
 給食を調理した飲食店営業者に対し、食品衛生法第55条に基づく営業停止処分を行うとともに、以下の指導を行った。
1 施設内及び調理器具の洗浄および消毒
2 大量調理施設衛生管理マニュアルの順守
3 加熱調理の有無による微生物残存性の比較試験の実施

原因究明
 海藻サラダの原材料は、カットわかめ(乾燥)、海藻ミックス(乾燥)、キャベツ、ニンジン及び冷凍コーンであった。キャベツ、ニンジン及び冷凍コーンは提供当日にボイルしていたが、カットわかめ及び海藻ミックスは、提供前日(6月25日)に水戻しして冷蔵保管後、加熱工程のないまま用いられていた。水戻し後に保管していた冷蔵庫は、作業中の食品の出し入れ、扉の開放により長時間にわたって10℃以上となっていた。
 海藻サラダの原料について遡り調査を実施したところ、埼玉県内の販売者が保管していた海藻ミックスの同ロット品から一般細菌数が2.0×105CFU/g検出され、さらに当該品の加工者が保管していた同ロット品の各原材料のうち、赤杉のりから2.1×107CFU/gの大腸菌群が検出されたことが、販売者及び加工者の自主検査から判明した。また、同一ロット品の赤杉のりの加工者を所管する大分県衛生環境研究センターで行政検査した結果、astA保有大腸菌Og7:H4が検出された(Og7はPCR法による。)。大分県から菌株の分与を受け、当所で血清型別検査を行い、O7:H4であることが確認された。
 患者、検食及び赤杉のりから分離した菌株について当所及び国立感染症研究所でPFGEを行ったところ、すべて同一パターンを示した。当該赤杉のりは、輸入者が2017年に輸入、2019年にカットしたのち加工者に販売されたものと推定されている。輸入時及びカット時に実施した検査では、大腸菌群陰性となっていた。以上のことから、赤杉のりが本事例の原因であると考えられたものの、その汚染源は不明であった。

診断:
 患者便19検体、従事者便9検体について食中毒細菌及びノロウイルスについて検査したところ、患者便14検体からastA保有大腸菌O7:H4 が検出された(stx1,stx2,lt,stp,sth,invE,eae,afaD,aggRは不検出)。これを踏まえ、検食27検体(6月24日から26日に提供された給食)についてastA保有大腸菌の検索を行ったところ、増菌培養した6月26日提供の海藻サラダ2検体(教育委員会及び飲食店営業者で保管されていたもの)からastA保有大腸菌O7:H4が検出された。血清型が患者便由来と一致したことから、海藻サラダを原因食品とする食中毒と判断された。

地研間の連携:
 原材料の遡り調査の一環で、海藻ミックスの加工業者を所管する大分県保健環境研究センターが、海藻ミックスの原材料の一つである赤杉のりから大腸菌Og7:H4を検出した。菌株の分与を受け、当所で血清型別検査及びPFGEを実施したところ、血清型はO7:H4であることが判明し、患者及び食品由来株とPFGEパターンが一致した。

国及び国研等との連携:
 当所及び大分県衛生環境研究センターから国立感染症研究所に菌株を送付し、PFGE及びSNP解析を依頼した。患者由来2株、海藻サラダ由来1株及び赤杉のり由来2株のPFGEパターンは一致し、SNPは最大で1か所であり、同一クローンであると考えられた。

事例の教訓・反省:
 学校給食については、学校給食法に基づく学校給食衛生管理基準により、原則加熱調理を行うべきであること、前日調理を行わないことが示されている。通常、学校給食調理施設ではこの基準を順守することが徹底されており、乾燥大豆を調理する場合であっても提供当日に水戻しから調理する施設もある。:
 本事例の原因施設である飲食店営業者では、調理は「提供当日に行う、加熱工程や盛付まで」を指しており、乾物の水戻しや野菜の洗浄やカット等は提供前日に実施しても差し支えない「下処理、前処理」と認識していた。また、野菜を含む生鮮食品については中心温度記録を含めて適正な加熱調理を実施していたものの、乾物については微生物の危害そのものを想定していなかった。
 このような認識を前提に、業務繁忙の状況下で作業効率を優先し、前日調理が常態となっていた。本事例は、基準を遵守していれば食中毒を防止することが可能であったかもしれない。
 本事例を通して、当日調理及び加熱調理の重要性が営業者に必ずしも理解されていないことが分かった。学校給食等の大量調理施設の監視指導の際には、大量調理施設衛生管理マニュアルに基づく助言、指導等を行っているが、当日調理及び加熱調理について適切な助言及び指導が必要である。また、文科省が所管する学校給食衛生管理基準について、県教育局及び教育委員会と連携しながら、基準の遵守徹底を図ることの重要性が認識された。

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