No.23004 卵調理品からSalmonella Enteritidisが検出された食中毒事例ー埼玉県

[ 詳細報告 ]

分野名:細菌性食中毒
衛研名:埼玉県衛生研究所
報告者:食品微生物担当 久保川 竣介
事例終息:事例終息
事例発生日:2022/8/16
事例終息日:2022/8/23
発生地域:埼玉県内
発生規模:-
患者被害報告数:113
死亡者数:0
原因物質:Salmonella Enteritidis
キーワード:サルモネラ・エンテリティディス、Salmonella Enteritidis、仕出し弁当、卵、玉子

概要:
 2022年8月18日、埼玉県内の医療施設から、「複数の医療スタッフが下痢、腹痛、発熱等の症状を呈している」との通報が保健所にあった。調査の結果、営業施設A(以下「A」)が8月16日に調理提供した仕出し弁当を喫食した、当該医療施設職員を含む4グループ及びAの従業員、計476名中113名(23.7%)が下痢、腹痛、発熱等の症状を呈していたことが判明した。潜伏期間は4時間から137時間(平均34.6時間)であり、潜伏期間別の患者発生数は一峰性であったことから、共通する食事による単一曝露が疑われた。
 当所へ搬入された患者便、調理従事者便及び8月16日にAが調理提供した仕出し弁当のメニュー(玉子エビチリ)からSalmonella Enteritidisが検出された。以上の疫学情報及び検査結果から、埼玉県は本件について、Aが調理提供した仕出し弁当を原因とするサルモネラ属菌による食中毒と断定し、Aに対して行政処分を行った。

背景:
 日本において、卵によるSalmonella Enteritidis(以下「SE」)食中毒は1990~2000年代に多発した。しかし、鶏卵のサルモネラ総合対策指針(平成17年1月26日付け第8441号農林水産省消費・安全局衛生管理課長通知)が発出され、農場やGPセンターなどにおける防疫及び衛生対策が取られるようになり、近年では卵や卵調理品を原因食品とするSE食中毒の発生は稀となった。2022年8月に埼玉県において発生した、SEを原因菌とする患者数100名を超える集団食中毒事件では、卵調理品が原因食品と特定され、原因究明調査から原材料の液卵のSE汚染が強く疑われる事例であったため報告する。

地研の対応:
 保健所の依頼に基づき、患者便、調理従事者便、食品及びふきとり検体について食中毒原因検査を行った。

行政の対応:
 Aに対し、食品衛生法に基づき3日間の営業停止処分を行うとともに、以下の指導を行った。
  1.施設内及び調理器具の洗浄及び消毒。
  2.十分な加熱調理方法の検証及び徹底。
  3.食品の保管管理適正化。
  4.調理工程の記録。
  5.衛生管理計画書の作成。

 また、Bに対し以下の指導を行った。
  1.施設内及び調理器具の洗浄及び消毒。
  2.作業動線の明確化や器具等の適切な保管。
  3.調理工程の記録。
  4.衛生管理計画書の作成。

原因究明:
 原因食品である玉子エビチリに使用された液卵は液卵製造業者B(以下「B」)で8月13日に製造された未殺菌液卵で、13日にAに納入された後16日まで冷蔵保管されていた。この液卵はAにのみ納入されていた。保健所の調査により、Bでは30℃を超える室内で100~120分程度の時間をかけて液卵製造が行われたものと推定された。また、Aにおける玉子エビチリの調理工程において、卵を炒める際には温度の確認が行われておらず、加熱が不十分であった可能性があった。これらの要因がSEの増殖及び残存を許したものと考えられた。卵の遡り調査は実施したが、Bにおいて同一ロット品は保存されておらず、液卵製造時の製造記録や使用した液卵のロット等の記録も残されていなかった。また、玉子エビチリの原材料として液卵の他にエビフリッターやチリソースがあったが、これらはAにおいて十分な加熱調理をされていたことが保健所の調査を通じて確認された。

診断:
 患者便72検体中48検体、調理従事者便17検体中3検体(陽性者3名は8月16日提供の弁当を喫食)、検食9検体中1検体(8月16日提供の玉子エビチリ)からSEが検出された。ふきとり18検体からはSEは検出されなかった。 分離されたSEについて、薬剤感受性試験ではいずれの分離株も18薬剤全てに感受性を示し、PFGE解析ではXbaⅠ、BlnⅠのいずれで処理した場合も同一パターンを示した。
 本件については、以下のことからSEを原因菌とする食中毒と判断された。
  1.患者便48検体、調理従事者便3検体、検食1検体からSEが検出されたこと。
  2.患者の主症状及び潜伏期間がサルモネラ属菌食中毒の特徴と一致したこと。
  3.患者の共通食が8月16日提供の仕出し弁当に限定されたこと

地研間の連携:
 特になし

国及び国研等との連携:
 特になし

事例の教訓・反省:

 今回の食中毒が引き起こされた要因として、以下が考えられた。

1.Bによる不適切な液卵製造
 30℃を超える室内で100分以上の時間をかけて液卵を製造していた。未殺菌液卵の製造基準に、割卵から充てんまでの工程で、鶏の液卵の温度が上昇しないように適切に温度管理を行うこと、割卵後の液卵を8℃以下に冷却することが規定されているが、これを満たしていなかった可能性が考えられ、SEの増殖の大きな要因になったと推察された。

2.Aでの主観に基づく加熱調理
 卵が半熟でないことを目視で確認することで加熱完了とし、卵の中心温度などの客観的な指標を用いていなかったため、「70℃1分以上」という鶏卵の調理基準を満たしていなかった可能性が考えられた。このような従業員の経験則のみに基づいた旧態依然の調理工程は、SEの残存の大きな要因であると推察された。

3.記録の不備
 両施設において調理製造から喫食に至るまでの様々な温度や時間の記録がされておらず、それらの検証も行われていなかったことが、SEの増殖や残存の間接的な要因となったと推察された。

 以上より、A及びBのいずれにおいても製造、調理工程や温度管理の記録に問題点があり、SEの残存や増殖に繋がったと推察された。また、製造、調理工程の見直しや温度管理の記録の重要性を営業者に対し引き続き周知していく必要があると考えられた。

現在の状況:
 特になし

今後の課題:
 食中毒原因検査においては、保健所と迅速に連携を取りながら、発生頻度が稀な病因物質についても念頭に置いて検査に当たることが重要である。

問題点:
 特になし

関連資料:
 2022年8月23日,プレスリリース(埼玉県保健医療部食品安全課);https://www.pref.saitama.lg.jp/a0708/news/page/news20220823.html

ページの先頭へ戻る