No.23005 管内旅館で発生したヒラメの刺身による食中毒ー新潟市

[ 詳細報告 ]

分野名:原虫・寄生虫・衛生動物
衛研名:新潟市衛生環境研究所
報告者:衛生科学室 山田 ゆり子
事例終息:事例終息
事例発生日:2022/5/23
事例終息日:2022/5/25
発生地域:新潟県新潟市
発生規模:
患者被害報告数:38
死亡者数:0
原因物質:Kudoa septempunctata
キーワード:Kudoa septempunctata ヒラメ 刺身 旅館

概要:
 令和4年5月25日、市内旅館営業者から宿泊者5名が嘔吐、下痢症状を呈し、うち3名が医療機関を受診していると連絡があった。保健所の調査の結果、23日および24日に宿泊した宿泊者は138名で、23日または24日の夕食を喫食した114名のうち、38名が消化器症状等の体調不良を呈していることが判明した。共通食にヒラメの刺身が含まれていたため、患者便からKudoa septempunctata(以下K. septempunctata)遺伝子検出を行ったところ、患者便35検体中、4検体が陽性となった。以上のことから、保健所は本事例をK.septempunctataによる食中毒と断定し、原因食品はヒラメの刺身と推定された。

背景:
 ヒラメに寄生するK.septempunctataは平成23年食中毒の病因物質に指定され、養殖ヒラメを中心に実態調査や対策が進められた。しかし、漁場で水揚げされた天然ヒラメは対策が困難であり、これらを原因とする食中毒発生が報告されている。
 K.septempunctata食中毒を予防するためには加熱または冷凍することが推奨されているが、刺身で提供する場合、風味を保持するために凍結等の処理がなされず、食中毒発生につながる事例が見受けられる。

地研の対応:
 保健所の依頼に基づき、食品、施設ふき取り、患者便及び調理従事者便について食中毒菌及びノロウイルスの検査を行った。これに加え、患者便については、平成26年5月26日 事務連絡「食中毒患者便からの Kudoa septempunctata遺伝子検出法(参考)について」に準拠し当所で定めた標準作業書に基づきK. septempunctataの検査を行った。ヒラメの残品はなかったため、食品についてK. septempunctataの検査は実施しなかった。

行政の対応:
 5月25日に保健所が営業者より情報を探知し、同日、立ち入り調査を行った。施設は衛生的に保たれており、施設内のふき取り、調理従事者の検便を実施した。患者の居住地は広域に渡っていたため、関係自治体へ関連調査を依頼し、営業者は検査結果がでるまで営業自粛を行った。営業再開にあたっては保健所職員による衛生講習会を実施し、29日より再開した。

原因究明:
 本事例では、喫食後1.5時間~16時間と比較的早い時間で下痢、嘔吐等の消化器症状を呈していることから、調査当初は黄色ブドウ球菌やセレウス菌食中毒が疑われた。しかし、夕食の提供食品にヒラメの刺身があったことから、K.septempunctataによる食中毒の可能性もあることを想定し、調査及び検査を行った。検査の結果、有症者便および調理従事者便からは、本事例の原因と断定できる食中毒菌やノロウイルスは検出せず、患者便4検体からK.septempunctata遺伝子が検出された。検食についてヒラメは残品が保管されておらず、遺伝子検査を行うことができなかった。
 有症者全員に共通する食事は当該施設で喫食した5月23日または24日の夕食のみであること、有症者の症状と発症までの時間がK.septempunctataによる一般的な症例定義と一致していること、有症者便4検体からK.septempunctata遺伝子が検出されたこと、施設周辺および施設利用者間で感染症を疑う情報がなかったことから保健所はK.septempunctataによる食中毒と断定した。

診断:
 市内の患者便24検体についてリアルタイムPCRによる検査を実施したところ、3検体からK. septempunctata遺伝子が検出された。

地研間の連携:
 市外在住者については、関係自治体に患者便からのK. septempunctata遺伝子検出を含めた関連調査を依頼し、患者便11検体中、1検体からK. septempunctata遺伝子が検出された。

国及び国研等との連携:
 

事例の教訓・反省:
 今回、初報では5月24日宿泊の3グループ5名が消化器症状を呈し、3名が緊急搬送された、との情報であった。しかし、営業者への詳細な聞き取りを実施した結果、前日の23日宿泊客に発熱、下痢症状を呈しコロナ相談センターに問い合わせた宿泊客がいたこと、下痢症状のため市販薬を服用した宿泊客がいたことが判明し、調査対象を2日間に拡大したところ、23日の宿泊者にも10名の発症者がいたことが確認された。事件の全体を把握するためには、詳細な聞き取り調査が大切であることを再確認した事例であった。
 また、共通食である夕食が11通りのコースメニューであり、114名の宿泊者がどのコースメニューを喫食したか把握し、喫食調査票を送付する作業が非常に複雑であった。今回は営業者が協力的であり、提供メニュー内容の再確認や宿泊者への連絡等率先して行ったため早期に対応することができたが、共通食が多岐にわたる場合の調査方法について再度整理することが必要であると感じた。

現在の状況:
 当市ではK. septempunctata食中毒が疑われる場合、平成28年4月27日生食監発0427第3号「Kudoa septempunctataの検査法について」及び平成26年5月26日事務連絡「食中毒患者便からのKudoa septempunctata遺伝子検出法(参考)について」(以下、通知法)に基づき検査を実施している。

今後の課題:
 K. septempunctataには人体に感染して長期間とどまることはなく、体外に排出すれば症状は速やかに治ると考えられている。そのため、通知法において、喫食から糞便検体採取までの期間が検査結果に大きく影響することに注意するよう留意点に挙げられている。今回、旅館の夕食にヒラメの刺身が提供されていることから、発生直後よりK. septempunctataによる食中毒も想定して調査を行ったが、喫食から2日で検査機関に搬入した検体は陽性率が25%であったが5日になると14.3%まで減少した。
 今回は有症者数が多く、35検体中4検体のK. septempunctata遺伝子陽性検体を得ることができたが、K. septempunctata食中毒が疑われる場合は、より早く検体を確保する必要があり今後の課題となった。

問題点:
 通知法では糞便300mgを試料としてリアルタイムPCRを実施するが、便の性状によっては正確に秤量することが困難であった。また、通知法ではCt値41以下を示した検体を陽性とすることとなっている。今回、遺伝子の増幅反応があったものの、Ct値が基準を満たさなかったため(42.1~46.7)、陰性と判定された検体が複数認められた。それらは遺伝子の増幅反応が認められるものの陰性と判定され、判断に苦慮した。通知法ではリアルタイムPCR装置はABI PRISM7000または同等品を使用することとなっており、今回は同等品である7500Fastを使用した。その際、ABI PRISM7000の基準値であるCt値41以下で判定することが適切であるか、検討が必要と考えられた。

関連資料:

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