No.231 A群溶血レンサ球菌食中毒

[ 詳細報告 ]
分野名:細菌性感染症
登録日:2016/03/17
最終更新日:2016/05/26
衛研名:福岡市保健環境研究所
発生地域:福岡市
事例発生日:1997年
事例終息日:
発生規模:2,676名
患者被害報告数:943名
死亡者数:0名
原因物質:A群溶血レンサ球菌
キーワード:A群溶血レンサ球菌感染症・食中毒・集団発生・上気道炎・パルスフィールド電気泳動法

背景:
海外においては牛乳や卵を原料とする食品やサラダ等を原因としたA群溶血レンサ球菌集団感染例の報告が多数あり、牛乳の低温殺菌が始められるようになった1940年代以降は発生件数は激減したといわれているが、それでも1957年から1977年の20年間には約30件の報告があり、その後20年間にも十数例の報告があった。一方、国内では食品を原因とするA群溶血レンサ球菌の集団感染例は、1969年埼玉県での学校給食の焼きそばによるもの(患者数69名)、1983年東京都でのサンドイッチによるもの(患者数583名)2事例の報告があるのみで、食品衛生法で指定された食中毒起因菌にはいっていなかった。

概要:
1997年5月に福岡市で開催された国際会議の警備に従事した警察官が、警備期間中配られた弁当を感染源としてA群溶血レンサ球菌に集団感染したもの。
1) 警備従事期間: 1997年5月9日~11日
2) 警備従事者: 2,676名
3) 有症者: 943名(うちA群溶血レンサ球菌感染症と診断された者119名)
4) 菌検出者: 43名(他に家族1名陽性)
5) 主な症状: 喉の痛み・発熱・倦怠感等
6) 共通食: 甲・乙業者が提供した弁当(9~11日に7回に分けて甲社3,877食・乙社3,815食提供)
7) 菌検出食品: 甲社5月10日弁当だし巻き卵・サケ・牛肉の複合サンプル
甲社5月10日保存食だし巻き卵
(菌量A群溶血レンサ球菌5,900個/g)

原因究明:
甲社の5月9~11日の保存食17検体と10日警察官へ夕食として提供した弁当及び乙社の9~11日の保存食27検体について検査したところ、甲社5月10日の保存食中の「だし巻き卵」及び同日製造の弁当中の「だし巻き卵・サケ・牛肉の複合サンプル」よりA群TB3264型溶血レンサ球菌が検出された。だし巻き卵中の菌量は、A群溶血レンサ球菌5,900個/g、生菌数190,000個/gであった。
医療機関において患者から分離された菌株もすべてTB3264型で食品由来株と一致した。また、食品由来株2株と患者由来株10株を国立感染症研究所へ送付しDNA解析を依頼したところ、制限酵素Sma I及びSfi Iによる消化後のパルスフィールド電気泳動法(以下PFGE法)による泳動パターンはすべて一致し、発赤毒素(spe)B遺伝子を有するということがPCR法で確認された。
5月21日に甲社の製造所の拭き取り検査及び落下細菌について調べたがいずれも陰性であった。従業員については遅れて8月25日に健康診断が実施され、64名中4名からA群溶血レンサ球菌を検出し、3検体がTB3264型で他の1検体はT1型であった。また、PFGE法で食品および患者由来菌株と一致するものはうち2検体であった。

診断:

地研の対応:
保健所からの依頼にもとづき原因究明のため細菌検査を実施した。

行政の対応:
福岡県警・福岡県・福岡市による上気道感染症対策連絡会議を設置し、状況の把握・原因の究明等を行った。事例の概要については福岡市保健福祉局より厚生省へ報告するとともに(社)福岡市医師会及び教育委員会に対して情報提供した。

地研間の連携:
平成10年7月に千葉県で開催される衛生微生物技術協議会第19回研究会にて報告予定。

国及び国研等との連携:
国立感染症研究所へ食品由来株と患者由来株のDNA解析を依頼した。
厚生省へ福岡市保健福祉局から報告し、それをもとに平成9年7月10日の食品衛生調査会食中毒部会食中毒サーベランス部会で検討された。その結果、平成9年7月11日付衛食第223号並びに衛乳第206号厚生省生活衛生局食品保健課長並びに乳肉衛生課長通知「ボツリヌス菌による食中毒及び上気道感染症様症状が初発症状である食中毒について」の中で上気道感染症様症状を初発症状とする事例にあっても食品との関連性も念頭において調査を行う旨の通知が出された。

事例の教訓・反省:
A群溶血レンサ球菌感染症は、食中毒及び伝染病としての届け出対象外であったことから全体の把握ができるまで時間を要した。また、A群溶血レンサ球菌感染症は飛沫感染が主と考えられてきたため、食品との関係はほとんど調べられておらず弁当等の食品における汚染実態の調査事例がなかったことや体外環境に出た群溶血レンサ球菌の病原性が明らかでなかったことのため、だし巻き卵からA群溶血レンサ球菌が検出された時点でも、健康被害を起こす菌量か判断ができなかった。

現在の状況:
今事例において分離されたA群溶血レンサ球菌について食品中での挙動を調査中。
なお、平成9年8月には高知県でも飲食店が原因とみられる集団感染が発生している。

今後の課題:
食品を原因としたA群溶血レンサ球菌集団感染が発生する可能性があることを考慮し以下のことが必要と考えられる。
1) 食品とA群溶血レンサ球菌の関係について調査すること。
2) 食品関係従事者へA群溶血レンサ球菌についても広く啓発していくこと。
3) 集団感染事例では食品を要因の一つとして視野に入れ、調査すること。

問題点:

関連資料:
1) 池田嘉子,他:弁当が原因と考えられるA群溶血レンサ球菌の集団感染.病原微生物検出情報,18:264, 1997