No.1056 菓子パン(クリームパン)によるサルモネラ食中毒

[ 詳細報告 ]
分野名:細菌性食中毒
登録日:2016/03/11
最終更新日:2016/05/27
衛研名:広島市衛生研究所
発生地域:広島市他広島県内各地
事例発生日:2002年10月21日
事例終息日:2002年10月27日
発生規模:喫食者数不明(原因食品(クリームパン)の10月21~23日販売数1523個)
患者被害報告数:患者数42名,
死亡者数:
原因物質:Salmonella Enteritidis
キーワード:Salmonella Enteritidis、菓子パン、クリーム、鶏卵、移動販売

背景:
食品業界の競争は厳しく、営業者は製造や販売方法に工夫を凝らして業績をあげる努力をしているが、食品衛生に関する配慮が不十分な業者もみられる。今回の食中毒は、幼児に人気の高い菓子パン(以下クリームパンという)にもかかわらず、十分な衛生対策が行われなかった事例である。

概要:
2002年10月21日、移動販売車で販売されていたクリームパンを原因食品としたSalmonella Enteritidis(以下SEという)食中毒が発生した。患者は10月21日から27日にかけて42名発生した。1歳児から4歳児が26名(62%)と患者の大半は幼児であり、平均潜伏時間は46.9時間であった。患者の共通食は10月21日から23日までに製造され、移動販売車により販売されたクリームパンのみであり、クリームパン残品および患者便からSEを検出したことからSEを病原物質、同食品を原因食品とした食中毒と判断した。
クリームパンに注入されたバタークリームには原材料として殻付鶏卵を使用しており、加熱工程は無かった。また、クリーム注入従事者はSE保菌者であった。これらのことから、クリームパンへのSE汚染は原材料からの汚染、またはSE保菌者の手指を介しての汚染が考えられた。バタークリームの使用残品は翌日に持ち越して使用されていた。調製したクリームパンは、冷媒入りのケースに保管して移動販売車により広島県内各地で販売された。
SEを検出した10月21日製造のクリームパン残品の菌数は8×102/gと低いものであった。クリームの持ち越し使用によりSEに汚染したクリームパンが継続して製造され、製造工程、移動販売車での不十分な温度管理により、低菌数ではあるが、感受性の高い幼児を中心に発症させて食中毒となったものと推察された。

原因究明:
患者の喫食状況調査結果および採取検体のサルモネラ検索から患者便23検体、従事者便2検体、および10月21日販売のクリームパン1検体からSEを検出したことから、クリームパンを原因食品とするSE食中毒と決定した。
バタークリームへのSE汚染は、原材料またはSE保菌者のクリーム注入担当従事者手指からの汚染が疑われ、また、バタークリームの製造工程に加熱処理が無かったことからSEを生残させたものと考えられた。
10月21日~23日の製品喫食により患者が発生したことについては、SE保菌者からの2次汚染、あるいはクリームパン調製に使用した残りのバタークリームが翌日に持ち越し使用されていたことなどからSEの継続汚染があったものと考えられた。
8×102/gのSEを検出したクリームパン残品は、検査時まで3日間常温に保管されていた。このことからクリームパンのSE汚染は非常に低菌数であったことが推測され、感受性の高い幼児を中心に発症させたものと考えられた。

診断:

地研の対応:
10月24日から27日にかけて、患者便42検体、従事者便等61検体、食品11検体、スワブ22検体計136検体についてサルモネラ検索を行った。検出したサルモネラについては、血清型別検査、6薬剤の感受性試験を行った。

行政の対応:
10月24日の事件探知後、有症者調査、原因施設調査および検体採取を行った。10月25日に営業禁止命令書を交付し詳細な原因調査を行った。10月26日に改善指示書を交付し、施設・器具等の洗浄・消毒を指導した。10月27~28日にかけて衛生教育の実施および洗浄・消毒状況の確認を行った。10月30日に改善報告書を受理して改善状況を確認後、6日間の営業禁止処分を解除した。

地研間の連携:
広島県保健環境センターと分離菌株の生物学的性状等の細菌学的な特徴についての情報交換を行った。

国及び国研等との連携:
事件後、患者由来株2株およびクリームパン残品由来株1株、計3株についてファージ型別を国立感染症研究所に依頼した。3株とも4型で一致した。

事例の教訓・反省:
サルモネラの発症菌数は10~104個とされており、幼児や高齢者は健康成人よりはるかに少量の菌数で発症するといわれている。今回の食中毒も低菌数のSEにより発生したものと考えられた。
当製造所のクリームパンは幼児に人気の高い製品であったが、営業者によるSE汚染の具体的な予防対策はとられていなかった。今後、食品業者は幼児等の抵抗力の弱い消費者を考慮したより厳しい衛生管理を行う必要があると考えられる。

現在の状況:
当施設ではバタークリームの調製を中止し、加熱したクリーム製品を購入してクリームパンを製造することとした。

今後の課題:
これまで、各種の対策が講じられてきたが、依然としてサルモネラは食中毒の主要な病原物質である。
食品業者、消費者ともサルモネラのリスクの認識が十分でないと考えられ、今後とも、行政(保健所)は監視・指導の強化および食中毒予防の啓発を継続していく必要がある。

問題点:

関連資料: