保健医療科学 震災を踏まえた地域保健研究のあり方

『保健医療科学』第60巻 第6号, p.466-470 (2011年12月)
特集:東日本大震災(2) 震災を踏まえた健康安全・危機管理研究の再構築 <総説>

震災を踏まえた地域保健研究のあり方PDF


曽根智史
国立保健医療科学院国際協力研究部

抄録
背景:今日の急性期災害医療体制は,阪神淡路大震災の反省に基づき研究が行われ,研究成果が国の施策に活かされることにより構築された.その本幹を成すものは,災害拠点病院,DMAT(災害派遣医療チーム),広域医療搬送計画,EMIS
(広域災害救急医療情報システム)の 4 本柱である.今回の震災においては,くしくもこの新しい急性期災害医療体制が試される結果ともなった.しかしながら,今回の震災における医療ニーズは,阪神淡路大震災とは全く違ったものであった.DMAT においても,これまで超急性期の外傷を中心とする救命医療に軸足を置いてきたが,今回の震災においては,また
新たな対応を要求された.
目的:今回の震災において DMAT の医療活動が効果的に行われたか後方視的に検証し,課題を抽出することにより,DMAT 事務局として今後の DMAT のあり方に関する研究の方向性を示すことを目的とした.
方法:2011 年 3 月 11 日発生した東日本大震災に対して,DMAT380 チーム,1,800 人の隊員が全都道府県から出動した.全 380 チームの活動報告書を基に,指揮命令系統,病院支援,域内搬送,広域医療搬送,入院患者避難搬送などそれぞれ
の DMAT 活動実績をまとめ,課題を抽出した.活動報告書は著者らが所属する DMAT 事務局が共通フォーマットを作成し,2011 年 6 月にインターネット配信し回収した.
結果:今回の震災では,DMAT 隊員 1.800 人を超える人員が迅速に参集し活動した.指揮命令系統においては,国,県庁,現場まで統括 DMAT が入り指揮を執った.急性期の情報システムも機能し,DMAT の初動はほぼ計画通り実施された.津波災害の特徴で救命医療を要する外傷患者の医療ニーズは少なかったが,被災した病院における DMAT の病院支援は十分に効果的であった.本邦初めての広域医療搬送が行われたことも意義があった.また急性期の医療ニーズが少なかった一方で,発災後 3 ~ 7 日に病院入院患者の避難等様々な医療ニーズがあったが,このような医療ニーズに対しても DMAT は柔軟に対応し貢献した.
考察:本震災において行われた急性期災害医療を,阪神淡路大震災時と比較すると,被災地入りした DMAT の数だけをとっても,隔世の感を持って進歩したと言え,これまでの研究の方向性が間違っていなかったことが証明された.しかしながら,今回の地震津波災害においては,阪神・淡路大震災に認められなかった様々な医療ニーズが出現し,その中には今まで研究されていない領域のものもあった.東海・東南海・南海地震が連動した場合は,今回と同じ医療ニーズが生じると考えられ,DMAT に関しては,これまでやってきた阪神淡路大震災タイプ(直下地震)の対応に加え,更なる対応が必要と考える.研究の方向性に関しても,今まで課題に挙がっていなかった部分を,今回の教訓をもとに進めて行く必要がある.
キーワード: 東日本大震災,地域保健活動,連携,リーダーシップ,人材育成

Abstract
In light of the lessons learned from the Great East Japan Earthquake and Tsunami, research on community health should focus on three major issues: public health preparedness and health crisis management, strengthening of the basic community health structure, and human resource development. The national government, local governments and research institutes should cooperate with each other to conduct studies that contribute to the design of new public health policy frameworks for a robust community health system.
keywords: Great East Japan Earthquake, community health activities, partnership, leadership, human resource development