No.16023 有害植物による食中毒疑いでのITS1領域塩基配列解析による植物種同定事例(ヨウシュヤマゴボウ)

[ 詳細報告 ]
分野名:自然毒等による食中毒
登録日:2017/04/04
最終更新日:2017/04/04
衛研名:山口県環境保健センター
発生地域:山口県
事例発生日:2014年11月
事例終息日:
発生規模:喫食者1名
患者被害報告数:1名
死亡者数:0名
原因物質:フィットラッカサポニンE(推定)
キーワード:フィットラッカサポニンE、ヨウシュヤマゴボウ、塩基配列解析、植物種同定

背景:
有毒植物の誤食による食中毒が国内で毎年発生している。
食中毒が発生した場合、原因究明や再発防止のために原因植物種の同定は非常に重要である。

概要:
自然薯と思い、種不明の植物の根を食した男性が嘔吐、下痢を発症し入院した。
残品の成分や形態学的な検討からは植物種の同定には至らなかったが、Internal transcribed spacer 1 (ITS1) 領域の塩基配列解析を試みたところ、ヨウシュヤマゴボウの根である可能性が高いことが判明した1)。

原因究明:
その後、地研において関連資料2)を参考に当該植物の根を用いてITS1領域の塩基配列解析により植物種の同定を試みた。
その結果、DNA抽出・PCR・電気泳動・塩基配列解析により得られた塩基配列についてDDBJ BLAST検索(blastn)を行ったところ、上位6位まで Phytolacca americana(ヨウシュヤマゴボウ、別名アメリカヤマゴボウ)と相同性が高く、当該植物はヨウシュヤマゴボウである可能性が最も高いことが判明した。
ヨウシュヤマゴボウは果実と根にフィトラッカサポニンEを主とする毒性成分を含み、生食すると腹痛・嘔吐・下痢を引き起こし、延髄に作用した場合死亡することもある植物である。したがって本件は、ヨウシュヤマゴボウの根を自然薯と間違えて食したために起きた自然毒食中毒と推定された。

診断:

地研の対応:
行政依頼により、残品として確保された当該植物の根について、シュウ酸カルシウム及びコルヒチンの含有量検査を行った。その結果、シュウ酸として1,775μg/gが検出され、コルヒチンは検出されなかった。

行政の対応:
確保された原因食品は根のみであり、当該植物の茎、葉がなかったため形態学的には植物種同定に至らず、食中毒の断定には至らなかった。

地研間の連携:

国及び国研等との連携:

事例の教訓・反省:
本事例は、形態学的に種類判別ができなかった植物種について、植物種ごとに特異的な領域(ITS1)のDNA塩基配列解析を行うことにより、種まで推定できた事例であった。

現在の状況:
その後、生のニラ、スイセン及び調理済みのスイセンについて試したところ、それぞれDDBJに登録されているニラとスイセンのITS1領域と相同性が高く、調理済みの検体でも種を同定できることが分かった。
今後同様の事例が発生した場合、極微量の検体や加熱調理済みの検体であっても、DNAの抽出及びPCRが可能であれば、植物種の同定ができると考えられる。

今後の課題:

問題点:

関連資料:
1)山口県環境保健センター所報 第57号(平成26年度)調査研究報告
2) Noriya Masamura, Ryo Kikuchi, Yasuaki Nagatomi, Developments of an identification method for foreign substances of plant origin using ITS 1 region, BUNSEKIKAGAKU, Vol 63, No. 3, PP. 245-253(2014),ⓒ 2014 The Japan Society for Analytical Chemistry