No.16018 イヌサフランの誤食による食中毒事例

[ 詳細報告 ]
分野名:自然毒等による食中毒
登録日:2017/04/04
最終更新日:2017/04/04
衛研名:横浜市衛生研究所
発生地域:横浜市都筑区
事例発生日:2016年5月21日
事例終息日:
発生規模:1家庭
患者被害報告数:2名
死亡者数:0名
原因物質:コルヒチン
キーワード:イヌサフラン、ギョウジャニンニク、家庭菜園、球根、コルヒチン、デメコルシン、横浜市

背景:
イヌサフラン(別名コルチカム)は、ユリ科(AGF体系ではイヌサフラン科)イヌサフラン属の球根植物であり、園芸植物として広く植えられているが、有毒アルカイドのコルヒチン及びデメコルシンを含有しており、葉や球根の誤食事件がしばしば発生している。

概要:
家庭菜園で栽培していたイヌサフランを同じ菜園で栽培していたギョウジャニンニクと間違えて採取し、球根をスライスして油で炒め、1家族3人中2人が喫食。吐き気・腹痛等の症状を呈した。残りの1人は、口に入れた際に苦みを感じてすぐ吐き出し、発症しなかった。
市内医療機関からの報告を受け、保健所が患者宅の調査を実施し、庭でイヌサフランとギョウジャニンニクが混在して栽培されていることを確認した。また、横浜市衛生研究所で喫食残品等を検査した結果、コルヒチンおよびデメコルシンが検出されたことから、イヌサフランの誤食による食中毒と断定した。

原因究明:
横浜市保健所は未調理のイヌサフランおよび患者らが喫食した残品からコルヒチンが検出されたこと、症状及び潜伏期間が両物質によるものと一致すること、口に入れてすぐに吐きだした喫食者が発生しなかったこと、医師から食中毒患者等届出票が提出されたことからイヌサフランの誤食による食中毒と断定した。

診断:
搬入された検体についてLC/MS/MSで分析したところ、喫食残品(2検体)から各々コルヒチンを270μg/g、300μg/g、デメコルシンを340μg/g、320μg/g、調理前の残品(球根)からコルヒチン510μg/g、デメコルシンを270μg/g、調理前の残品(葉)からコルヒチン69μg/gを デメコルシンを70μg/g、家庭菜園から採取した球根からコルヒチン220μg/g、デメコルシン400μg/gを検出した。

地研の対応:
横浜市保健所からの依頼により喫食残品(球根)、調理前の残品(球根及び葉)及び患者自宅の庭から採取した検体(球根)中のコルヒチン、デメコルシンの定性・定量検査を実施した。

行政の対応:
横浜市保健所は、市内の医療機関からイヌサフランの誤食が疑われる患者を診察した旨の報告があったことから、患者宅の調査を行った。その結果、家庭菜園でギョウジャニンニクとイヌサフランが混在して栽培されていることを確認した。横浜市衛生研究所で喫食残品等を検査した結果、コルヒチンおよびデメコルシンが検出されたことから、イヌサフランの誤食による食中毒と断定した。
また、イヌサフランの誤食について、患者への指導・啓発を行った。

地研間の連携:

国及び国研等との連携:
特になし

事例の教訓・反省:
本事例では、母親がイヌサフランとギョウジャニンニクを植えた当初は、家庭菜園中で別々に植え分けていた(ただし、イヌサフランの有毒性については意識していなかった)。時の経過とともに、菜園植物の植え替え等を経て混在し、事件時の採取者は娘であった。
イヌサフラン球根の販売の際の有毒性に関する注意喚起、食用植物を栽培する菜園に有毒植物を混栽しないことの啓発等の徹底の必要性を感じさせられた事例であった。

現在の状況:
より多くの自然毒による食中毒に対応できるように、検査体制の整備に取り組み始めた。

今後の課題:
多種の自然毒による食中毒の発生に備えた標準品の確保や分析法の検討

問題点:

関連資料:
1) 桐ケ谷忠司、宮沢啓貴ら:横浜衛研年報 45, 91-96(2006)