銃創部位別の処置

頭部処置
脊椎処置
頚部処置
胸部処置
腹部処置
四肢処置

頭部処置

【初期評価】

頭部銃創は、約 90% の患者が現場もしくは来院時に死亡するきわめて予後不良な外傷であるが 1) – 3)、本 邦における外傷初期診療ガイドラインに従った診療を行う 4)5).頭部外傷の初期診療は、頭蓋外因子によ る二次性脳損傷を最小限にとどめることが重要なため、すぐに primary survey を開始し、気道、呼吸、 循環(A – B – C)に異常が認められれば、積極的にその安定化を行う.A – B – C の問題がクリアされた後に、中枢神経の異常を評価する.蘇生後の GCS スコアを評価し、頭蓋内圧亢進症状の有無を確認する. primary survey における中枢神経の異常の発見では、GCS スコア 8 以下、あるいは GCS スコア 2 以上の 急速な悪化、瞳孔不同や片麻痺(脳ヘルニア徴候)を認めた場合(“ 切迫する D”)には、ただちに気管挿管などによる確実な気道の確保を行い、脳神経外科医へ連絡し、secondary survey の最初に頭部 CT を行う.
 secondary survey における頭部の評価は、外表の観察のため可能な限り頭髪の剃毛を行う.弾丸による創の位置と数を同定し、発砲された距離を推定するためpowder burnがあれば記録する.頭蓋骨骨折に伴う眼鏡状出血やBattle’s sign、眼損傷および眼窩損傷、外耳道や口鼻腔からの出血、髄液漏の検索を行う.詳細な神経診察が可能であれば、他臓器の評価が終了した後に行う.

1)Siccardi D, et al:Penetrating craniocerebral missile injuries in civilians : a retrospective analysis of 314 cases. Surg Neurol 1991 ; 35 : 455 – 460.
2)Marshall LF、et al : A multicenter trial on the efficacy of using tirilazad mesylate in cases of head injury. J Neurosurg 1998 ; 89 : 519 – 525.
3)Part 2 : Prognosis in penetrating brain injury. J Trauma 2001 ; 51 : S44 – 86.
4)日本外傷学会外傷初期診療ガイドライン改訂第 5 版編集委員会:外傷初期診療ガイドライン JATEC.
改訂第 5 版.日本外傷学会・日本救急医学会監修.東京:へるす出版、2017.
5)重症頭部外傷治療・管理のガイドライン作成委員会 : 重症頭部外傷治療・管理のガイドライン.第 3 版 .
日本脳神経外科学会・日本脳神経外傷学会監修.東京 : 医学書院 , 2013.

【画像診断】

 頭部外傷急性期の初期診療における画像診断は、手術適応の有無や術式の決定に必要である.第一選択とする画像診断法は CT である. 注目すべき CT の所見として、弾丸や骨片の正確な位置と数、頭蓋 内血腫、脳腫脹、弾道路と血管との位置関係、副鼻腔・乳突蜂巣損傷、気脳症、脳室損傷、脳幹損傷、脳 底槽消失、弾道路が正中構造をこえているか、複数の脳葉の損傷があるかなどがあげられる 1)2).骨条件に加え、 冠状断と矢状断も有用である.
 X 線は、頭蓋骨骨折、弾丸や骨片の位置、気脳症などの評価が可能だが、通常は CT が撮影されるため、 ルーチンでの検査は推奨されない. MRI は、検査に時間を要し、また磁場の影響で鉄を含む金属片が 移動して新たな脳損傷をきたす可能性があるため原則行わない.脳血管造影は、血管損傷の可能性がある 場合に推奨される.弾道路がシルビウス裂近傍(中大脳動脈)、内頚動脈の床上部、椎骨脳底動脈、主要 な静脈洞と近接する場合や、くも膜下出血や遅発性に頭蓋内血腫が出現した場合は血管損傷を疑う 3).

【手術適応】

 手術適応は、積極的な蘇生と画像検査を行った後に、神経学的所見および画像所見から判断する.明確 なコンセンサスは得られていないため、症例ごとに予後不良因子を評価し、手術適応を決定する 1).
 蘇生後の GCS スコア 3 または 4 かつ瞳孔散大・固定した症例はきわめて予後が悪く、手術適応がないと考えられ、積極的な治療は行われないことが多い.また予後不良因子として、年齢、自殺、低血圧、凝固異常、 GCS スコア低値、瞳孔散大、対光反射消失、頭蓋内圧亢進、CT 所見で両側大脳半球・複数の脳葉の損傷、脳室内出血などが報告されている 2) – 6).
 しかし、2011 年に米国でガブリエル・ギフォーズ下院議員が銃撃された事件では、頭部銃撃から劇的な回復を遂げた.致死的な症例のなかにも良好な転帰をとる症例が報告され 3)7) – 9)、手術適応の判断、手術お よび術後管理の重要性が強調されている 7).

1)Surgical management of penetrating brain injury. J Trauma 2001 ; 51 : S16 – 25.
2)Aarabi B, et al:Predictors of outcome in civilian gunshot wounds to the head.J Neurosurg 2014 ;120 : 1138 – 1146.
3)Gressot LV, et al : Predictors of outcome in civilians with gunshot wounds to the head upon presentation. J Neurosurg 2014 ; 121 : 645 – 652.
4)Rosenfeld JV, et al : Current concepts in penetrating and blast injury to the central nervous system.World J Surg 2015 ; 39 : 1352 – 1362.
5)Turco L, et al : Penetrating Bihemispheric Traumatic Brain Injury : A Collective Review of Gunshot Wounds to the Head. World Neurosurg 2017 ; 104 : 653 – 659.
6)Muehlschlegel S, et al : Predicting survival after acute civilian penetrating brain injuries : The SPIN score. Neurology 2016 ; 87 : 2244 – 2253.
7)Lin DJ, et al : “Time is brain” the Gifford factor-or : Why do some civilian gunshot wounds to the head do unexpectedly well? A case series with outcomes analysis and a management guide. Surg Neurol Int 2012 ; 3 : 98.
8)Joseph B, et al:Improving survival rates after civilian gunshot wounds to the brain. J Am Coll Surg 2014 ; 218 : 58ー65.
9)Kaufman HH, et al : Patients with Glasgow Coma Scale scores 3, 4, 5 after gunshot wounds to the brain. Neurosurg Clin N Am 1995 ; 6 : 701ー714.

【手術治療】

 感染のリスクを減少させるため、受傷早期の手術が勧められる 1) – 3).時間に関する明らかなエビデンス はない 3).
 頭蓋骨に対して接線方向の受傷など、創が小さく頭蓋内損傷がない場合には、局所のデブリードマンと閉創を行う 1).硬膜に損傷が及んでいるが頭蓋内損傷が軽微な場合は、より広範なデブリードマンを行い、硬膜を watertight に閉じる.頭蓋骨の破砕や頭蓋内出血による mass effect、脳腫脹、脳組織の挫滅、脳内に容易に除去できる骨片が存在する場合には開頭術を行う.
 開頭を行う際、創周囲の組織に対してデブリードマンを行う.遊離骨片は除去し、銃弾貫通部から 離れた位置で開頭を行う.副鼻腔と交通した場合は、膿瘍形成や髄液漏のリスクを減少させるために、硬膜を watertight に閉じる.頭蓋内血腫や挫滅した脳組織を吸引し、骨片や弾丸は容易に除去できるようで あれば除去する 3).しかし、残存した脳組織(特に eloquent area)から骨片や弾丸を除去すると、外傷性 てんかんのリスクを減少させるが 4)、死亡率の上昇や転帰の悪化と相関するため、無理に摘出すべきではない 1)5) – 7).また深部の骨片や弾丸は、感染のリスクを増加させないと報告されている 8).
 減圧開頭をすべきか否かに関して、死亡率に有意な差はない 9)10).長距離搬送を伴う military の研究では、早期の減圧開頭の方が転帰はよいとの報告がある 11).

1)Surgical management of penetrating brain injury. J Trauma 2001 ; 51 : S16 – 25.
2)Helling TS、et al : The role of early surgical intervention in civilian gunshot wounds to the head. J Trauma 1992 ; 32 : 398 – 400.
3)Hubschmann O、et al : Craniocerebral gunshot injuries in civilian practice–prognostic criteria and surgical management : experience with 82 cases. J Trauma 1979 ; 19 : 6 – 12.
4)Salazar AM, et al : Epilepsy after penetrating head injury. I. Clinical correlates : a report of the Vietnam Head Injury Study. Neurology 1985 ; 35 : 1406 – 1414.
5)Esposito DP、et al : Contemporary Management of Penetrating Brain Injury. Neurosurgery Quarterly 2009 ; 19 : 249 – 254.
6)Chaudhri KA、et al : Penetrating craniocerebral shrapnel injuries during “Operation Desert Storm” :early results of a conservative surgical treatment. Acta Neurochir(Wien)1994 ; 126 : 120 – 123.
7)Hammon WM : Analysis of 2187 consecutive penetrating wounds of the brain from Vietnam. J Neurosurg 1971 ; 34 : 127 – 131.
8)Lillard PL : Five years experience with penetrating craniocerebral gunshot wounds. Surg Neurol 1978 ; 9 : 79ー83.
9)Gutiérrez-González R、et al : Penetrating brain injury by drill bit. Clin Neurol Neurosurg 2008 ; 110 : 207ー210.
10)Rish BL, et al : Evolution of craniotomy as a debridement technique for penetrating craniocerebral injuries. J Neurosurg 1980 ; 53 : 772 – 775.
11)Bell RS、et al : Early decompressive craniectomy for severe penetrating and closed head injury during wartime. Neurosurg Focus 2010 ; 28 : E1.

【術後管理】

 頭蓋内圧モニタリングに関する研究は、鈍的外傷と比較して少なく、頭蓋内圧管理が予後に影響を与え たというエビデンスはほとんどない 1).しかし、銃創においても頭蓋内圧亢進は死亡率を上昇させるた め 2) – 4)、脳腫脹や頭蓋内出血のある症例では頭蓋内圧を測定し、亢進を認めた場合は鈍的外傷と同様に頭 蓋内圧管理をするよう推奨されている 5).
 髄液漏は 28% と高頻度に生じると報告されている 6).脳室ドレーンや腰椎ドレーンを挿入しても髄液漏 を繰り返す場合は、外科的に硬膜を修復することが推奨される 7).

1)Esposito DP, et al : Contemporary Management of Penetrating Brain Injury. Neurosurgery Quarterly 2009 ; 19 : 249 – 254.
2)Crockard HA : Early intracranial pressure studies in gunshot wounds of the brain. J Trauma 1975 ; 15 : 339ー347.
3)Lillard PL : Five years experience with penetrating craniocerebral gunshot wounds. Surg Neurol 1978 ; 9 : 79ー83.
4)Sarnaik AP, et al : Role of aggressive intracranial pressure control in management of pediatric craniocerebral gunshot wounds with unfavorable features. J Trauma 1989 ; 29 : 1434 – 1437.
5)Intracranial pressure monitoring in the management of penetrating brain injury. J Trauma 2001 ; 51 : S12ー15.
6)Arendall RE、et al : Air sinus wounds : an analysis of 163 consecutive cases incurred in the Korean War、1950 – 1952. Neurosurgery 1983 ; 13 : 377 – 380.
7)Management of cerebrospinal fluid leaks. J Trauma 2001 ; 51 : S29 – 33.

【血管損傷】

 血管損傷の発症率は 5 – 40% といわれている 1) – 3).血管損傷として、外傷性脳動脈瘤、動静脈瘻、外傷性 くも膜下出血、脳血管攣縮などをきたす.
 以下の場合には、脳血管造影を行うことが勧められる4).
 ①散弾による受傷.
 ②射出口が明らかではない.
 ③弾道路の後半部分に血腫やくも膜下出血を認める.
 ④頭蓋底を貫通する.

 緊急時には 4-vessel study を必ず行う必要はなく、目的とする血管のみ造影を行ってもよい 5).遅発性 または説明不能なくも膜下出血や頭蓋内血腫が出現した場合、脳血管造影を行うことが強く推奨される. 血管損傷は受傷から数ヵ月後に生じることもあり、初回の脳血管造影のみで血管損傷がないと結論付けて はならない.血管損傷が疑われた場合には 2 – 3 週後に再検査をすることが勧められる.
 外傷性脳動脈瘤、動静脈瘻を認めた場合は、開頭術または血管内手術が勧められる 5).

【抗菌薬】

 感染は 1 – 5% と頻度は高くないが、死亡率が高い合併症である 1)2).異物や皮膚、毛髪、骨片が脳内の 弾道路に残存すると、創感染、髄膜炎、脳室炎、脳膿瘍が生じる可能性がある.特に、髄液漏、副鼻腔損傷、 脳室損傷、正中構造をこえる損傷は感染のリスクが高まる 1).
 Staphylococcus aureus は最も頻度の高い病原菌であるが、グラム陰性桿菌も起因菌としての頻度が高 い 1).感染予防として、広域スペクトラムの抗菌薬が好まれ、セフェム系抗菌薬が最も用いられている 3).
 British Society for Antimicrobial Chemotherapy は、アモキシシリン・クラブラン酸 1.2g を 8 時間おきに 静注(本邦において静注薬は未承認)、またはセフロキシム初回 1.5g その後 8 時間おきに 750mg 静注し、 可能な限り受傷後早期から開始し、手術後 5 日間継続するよう推奨している 4).他に、バンコマイシンや 嫌気性菌に対してメトロニダゾールの投与や 5)、最低でも 7 ~ 14 日間の投与継続を推奨する報告もある 6).

【抗てんかん薬】

 頭部銃創によるてんかんの発症率は、30% ~ 50% と報告されている 1).硬膜損傷および脳損傷があると、てんかんの発症リスクは高まる.受傷後 7 日以内に発症するのは 10% 未満であり、80% は受傷後 2 年以内 に発症するが、18% は受傷後 5 年以降経過してから発症した 2)3).頭部銃創においても , 早期てんかんの予 防に受傷後 1 週間は抗てんかん薬を使用するように勧められる 1)4).晩期てんかんを予防できないため 1 週 間以上は投与すべきでない 1)4).しかし現実には、損傷した脳組織が大きい場合や晩期てんかんの可能性が 高い場合は継続していることが多い.頭部銃創を対象にした薬剤の選択に関する研究はなく、本邦のガイ ドラインではフェニトインの経静脈投与が勧められている 5).一方、メタ解析ではレベチラセタムとフェ ニトインは有効率に差がなく 6) – 8)、レベチラセタムはフェニトインにくらべて副作用が少ないという結果 が得られている 9) – 10).

1)Antiseizure prophylaxis for penetrating brain injury. J Trauma 2001 ; 51 : S41ー43.
2)Salazar AM、et al : Epilepsy after penetrating head injury. I. Clinical correlates : a report of the Vietnam Head Injury Study. Neurology 1985 ; 35 : 1406 – 1414.
3)Caveness WF, et al : The nature of posttraumatic epilepsy. J Neurosurg 1979 ; 50 : 545 – 553.
4)Aarabi B, et al : Prognostic factors in the occurrence of posttraumatic epilepsy after penetrating head injury suffered during military service. Neurosurg Focus 2000 ; 8 : e1.
5)重症頭部外傷治療・管理のガイドライン作成委員会:重症頭部外傷治療・管理のガイドライン.第 3 版.日本脳神経外科学会・日本脳神経外傷学会監修.東京:医学書院、2013.
6)Khan NR、et al:Should Levetiracetam or Phenytoin Be Used for Posttraumatic Seizure Prophylaxis? A Systematic Review of the Literature and Meta-analysis.Neurosurgery 2016;79:775 – 782.
7)Yang Y、et al:Levetiracetam Versus Phenytoin for Seizure Prophylaxis Following Traumatic Brain Injury:A Systematic Review and Meta-Analysis.CNS Drugs 2016;30:677ー688.
8)Zafar SN、et al:Phenytoin versus Leviteracetam for seizure prophylaxis after brain injury – a meta analysis.BMC Neurol 2012;12:30.
9)Thompson K、et al:Pharmacological treatments for preventing epilepsy following traumatic head injury.Cochrane Database Syst Rev 2015:CD009900.
10)Xu JC、et al:The safety and efficacy of levetiracetam versus phenytoin for seizure prophylaxis after traumatic brain injury:A systematic review and meta-analysis.Brain Inj 2016;30:1054 – 1061.

脊椎処置

【アルゴリズムの説明】
  • 胸部銃創では循環動態が安定か不安定かで診療アルゴリズムを使い分ける .
  • -循環動態が不安定な胸部銃創

    ・切迫心停止状態であれば、緊急室開胸を行う .

    ・循環動態が不安定な胸部銃創では、基本的に手術が必要となることを理解する .

    ・初期評価では、銃創路のアセスメントを行い、心損傷の可能性があれば(縦隔を通る銃創路が考えられた場合は)胸骨正中切開を選択する . クラムシェル開胸を選択することも可能である .

    ・手術にて迅速に出血部位、損傷臓器を同定し、ダメージコントロール手術を行う .

    -循環動態が安定した胸部銃創

    ・単純 X 線にて銃創路をアセスメントするとともに、心損傷と血気胸を検索する .

    ・心損傷の検索は、エコー検査による心嚢液の検出が基本となるが、判断困難である場合は剣状突起下からの心膜切開を行う.心損傷が診断された場合は、胸骨正中切開にて手術を行う .

    ・血気胸の検索は、胸部 X 線によって行い、血気胸を診断した場合は胸腔ドレーンを留置する.1,500cc以上のドレーンからの出血を認めた場合は緊急開胸手術を行う .

    ・心損傷と血気胸の検索・初期治療を行った後に、胸部 CT(CTA)検査を行う.その後、それぞれの臓器損傷に対して、さらなる検査や治療を行う .

    ・肺実質損傷に関しては、胸腔ドレーンからの持続する出血や持続する air leak の有無を確認し、必要に応じて追加治療を行う .

【臓器損傷の頻度】

 胸部銃創における大血管損傷の頻度は 5. 3%であると報告されている 1).手術室での緊急手術が必要とな る胸部銃創では、約 10 ~ 37%の頻度で心損傷を認め 2)3)、約 65 ~ 86%の頻度で肺損傷を認めると報告さ れている 4).

【循環動態が不安定な患者の初期評価】

 心肺停止状態あるいは瀕死状態である場合、救急室開胸を施行する 1).また、鎖骨より頭側の銃創の場 合は、頚部銃創のアルゴリズムに従って治療する 2).
 primary survey を行うが、全身観察を必ず行い、銃創の位置と数を記録する.銃創の位置を含めた X 線写真を撮影し、銃創路をアセスメントする.心損傷が疑われる銃創路を認めた場合、エコー検査にて心 嚢液の評価を行う.ただし、血胸が認められた場合は、心嚢液を認めない場合でも心損傷は除外できない. 胸部の穿通性外傷の約 20%に腹部外傷の合併を認める.銃創路が腹部を含んでいる場合は開腹手術が必要 になる 3)4).

【循環動態が不安定な患者における開胸方法】

 初期評価にて心損傷が診断あるいは疑われた場合、銃創路が縦隔を含んでいる場合、あるいは両側の中 鎖骨線の内側に位置する銃創の場合は、胸骨正中切開が適している.胸骨正中切開にて心臓と上縦隔の大 血管にアプローチすることが可能となる.必要に応じて鎖骨上まで切開創を延長することができる.クラ ムシェル開胸も選択肢の一つであり、特に左右胸腔内にも別の損傷が疑われている場合にはよい適応となる 1).
 縦隔損傷が疑われない胸腔内損傷の場合は、前側方開胸を選択する.左右の胸腔内損傷が疑われている 場合は、出血量が多い側を先に開胸する 2).

【肺損傷に対する創路切開(Tractotomy)】

 肺実質が銃創によって損傷している場合、肺表面の銃創の縫合はすべきではない.銃創路にステイプラ – を挿入し、銃創路の表面側の肺実質を縫合切離する方法を Tractotomy と呼ぶが、これにより銃創路が露 出し、深部の出血の同定と出血源の縫合止血が可能となる.Tractotomy は、循環動態が不安定な胸部銃 創に対して行うダメージコントロール手術の一手技として、非常に重要である 1)2).

【循環動態が安定した患者の初期評価】

 primary survey を行いながら、循環動態が安定しているかを常に確認する.全身観察を必ず行い、銃創 の位置と数を記録する.銃創の位置を含めた単純 X 線写真を撮影し、銃創路をアセスメントする.血気胸 の有無を判断するのに、身体所見は重要であるが、約 3 分の 1 の症例で身体所見は不正確となるため、胸部 X 線写真は必須である 1).

【循環動態が安定した患者における心損傷の検索と対応】

 両側の鎖骨中線の内側に銃創を認めた場合や、銃創路から心損傷が疑われた場合は、エコー検査にて心嚢液の評価を行う.ただし、血胸が認められた場合は、心嚢液を認めない場合でも心損傷は除外できない 1).
 エコーにて心嚢液の有無の評価が困難であった場合は、剣状突起下から心膜切開(subxiphoid window/cardiac window)を行う.この手技は、エコーによって施行頻度が大きく減ったが、より確実に心嚢液の評価を行う目的でしばしば行われる 2).
 心嚢液が存在した場合は、胸骨正中切開が適切な開胸方法となる.ほとんどの心損傷は単純なマットレ ス縫合で修復可能であるが、冠動脈付近であれば垂直マットレス縫合によって冠動脈の閉塞を防ぐことが できる.冠動脈の損傷を認める場合は、左前下行枝中枢の損傷であれば修復が必要となるが、左前下行枝 の末梢や、右回旋枝、右冠動脈であれば、心筋障害の程度が軽度な場合は結紮による止血が可能である3).

【循環動態が安定した血気胸の初期治療】

 遺残血胸は膿胸の重大なリスクになることをふまえて、太いドレーンチューブを選択し、留置する.
 チューブ挿入時に 1,500cc以上の大量出血を認めた場合や、循環動態の安定性が懸念される場合は緊急開 胸手術が適応となる.胸腔ドレーンからの出血量のみを指標にすると、損傷の重症度を過少評価すること につながる 1)2).緊急開胸手術が必要となった胸部銃創患者の後ろ向き検討では、胸腔ドレーンからの出血 量を理由に開胸にいたった症例は 50%であったとの報告もある 3).

【循環動態が安定した患者に対する CT 検査】

 身体所見や単純 X 線写真 , エコーによる銃創路のアセスメントによって縦隔損傷が疑われた症例では、 胸部 CT 検査によって縦隔損傷の評価を行う.胸部 CT 検査は血気胸の評価と治療、心損傷の評価と治療 が行われた後に施行する.
 胸部 CT 検査によって大血管損傷が診断可能となるが、時に銃弾によるアーチファクトが血管壁の正確 な評価を困難とするため、その場合は血管造影検査を行う.また、食道損傷が疑われた場合は食道造影検 査や上部消化管内視鏡検査を行う.気道損傷が疑われた場合は気管支鏡を行う 1).

【横隔膜損傷の治療】

 横隔膜損傷は銃創の位置や銃創路、臨床所見などで疑うが、左胸腹部の穿通性外傷では 17%ほどに横隔 膜損傷を認める.開胸や開腹手術の適応がない状況で、横隔膜損傷のみが疑われた場合は、胸腔鏡や腹腔 鏡を選択してもよい 1).なお、左側の横隔膜損傷を認めた場合は、開腹手術が必須となる.右側の横隔膜 損傷を認めた場合は、修復が必要とならない肝損傷のみであれば、開腹手術の必要はない 2).

【大動脈損傷の血管内治療】

 血管内治療の発展によって胸部大血管損傷に対する治療オプションが増えたが、大血管損傷に対する血 管内ステント留置の報告のほとんどは、鈍的外傷である.ステント留置の際には、重要な大動脈分枝をス テントにて閉塞することになるか、適切なサイジングができるか、十分なランディングゾーンが確保でき るか、などが検討事項となる.血管内治療の役割は今後も拡大することが予想される 1).

【血気胸(肺実質損傷)の継続対応】

 胸腔ドレーンチューブからの 150 ~ 200cc /h の出血が 2 ~ 4 時間持続する場合は開胸手術の適応であり、 状況に応じて VATS も選択肢の一つとなり得る.24 時間で 1,500cc 以上の出血を開胸基準とすると、合併症の減少につながることが示唆されている.また、胸腔ドレーンからの出血量のみを指標にすると、損傷 の重症度を過少評価することにつながる 1).
 また、遺残血胸は膿胸の重大なリスクになることを知る必要がある.遺残血胸を認めた患者の 26.8%で 膿胸を発症したとの報告もあり、300ccをこえる遺残血胸を認めた場合は、なにかしらの追加治療が必要 となる可能性が高い 2).
 持続する air leak を認める場合は VATS を検討すべきであり、受傷後三日目まで続く air leak を認めた場合には VATS を施行することで、入院期間などが短くなることが報告されている 3).

山元 良

腹部処置

 銃創(GSWs)の 90%以上は腹膜を貫通し、腹膜貫通がある症例は高率に治療を要する腹部臓器損傷を 伴うため、多くは緊急手術が必要である 1).循環動態不安定もしくは腹部全体に及ぶ腹膜刺激症状を伴っ た症例は緊急開腹が必要である 2).消化管出血を認める場合や理学所見が正確に取れない場合も緊急開腹 の適応となる.時間的余裕があればクリップなどを用いて銃創のマーキングし胸腹部 X 線撮影を行えば、 弾道を推測することができる.
 循環動態が安定し腹膜刺激症状を伴わない刺創(SWs)においては選択的な症例に対して保存的加療 (NOM)について異論は少ないが、同様な条件下の GSWs に対する NOM に関しては議論となっている. GSW に対する NOM でデータは、穿通性外傷が豊富な同じ施設の同じ著者からのものが多い 2) – 12).
 北米の NTDB を用いた腹部穿通性外傷に対する NOM の結果に対する研究(GSWs、12,707 例)では、 GSWs に対する NOM 選択率は 22.2%であり、そのうちの 20.8%の GSWs でその後手術が必要となってお り、NOM の失敗による死亡に対するオッズ比は 4.48 と高く注意が必要であると論じている 12).以上より GSWs が非常に少ない日本では NOM は危険であり推奨できない.

1)Moore EE、et al : Mandatory laparotomy for gunshot wounds penetrating the abdomen. Am J Surg 1980 ; 140 : 847 – 851.
2)Como JJ、et al : Practice management guidelines for selective nonoperative management of penetrating abdominal trauma. J Trauma 2010 ; 68 : 721 – 733.
3)Demetriades D、et al : Selective nonoperative management of penetrating abdominal solid organ injuries. Ann Surg 2006 ; 244 : 620 – 628.
4)Renz BM、et al : Gunshot wounds to the right thoracoabdomen : a prospective study of nonoperative management.J Trauma 1994 ; 37 : 737 – 744.
5)Navsaria PH, et al : Selective nonoperative management of liver gunshot injuries. Ann Surg 2009 ; 249 : 653 – 656.
6)Navsaria PH, et al : Selective nonoperative management of kidney gunshot injuries.World J Surg 2009 ; 33 : 553 – 557.
7)Velmahos GC、et al : Selective nonoperative management in 1、856 patients with abdominal gunshot  wounds : should routine laparotomy still be the standard of care?. Ann Surg 2001 ; 234 : 395 – 402 ; discussion 402 – 403.
8)Demetriades D、et al : Gunshot wound of the abdomen : role of selective conservative management.Br J Surg 1991 ; 78 : 220 – 222.
9)Demetriades D、et al : Selective nonoperative management of gunshot wounds of the anterior abdomen. Arch Surg 1997 ; 132 : 178 – 183.
10)DuBose J、et al : Selective non-operative management of solid organ injury following abdominal gunshot wounds.Injury 2007 ; 38 : 1084 – 1090.
11)Fikry K、et al : Successful selective nonoperative management of abdominal gunshot wounds despite low penetrating trauma volumes. Arch Surg 2011 ; 146 : 528 – 532.
12)Zafar SN、et al : Outcome of selective non-operative management of penetrating abdominal injuries from the North American National Trauma Database.Br J Surg 2012 ; 99 Suppl 1 : 155 – 164.

【前腹部銃創】

 Velmahos らの 1,856 例の腹部銃創の報告において、前腹部銃創は背部銃創にくらべ緊急開腹となる可能 性が高い(66% vs 32%、p<0.001)1).
 循環動態が安定し、腹部所見を認めない症例に関しては銃創部位にかかわらず NOM が可能であるとい う意見も多いが 1) – 6)、腹部銃創の NOM に対して右上腹部または右胸腹部銃創においてのみ行うべきある という意見もある 7) – 10).

1)Velmahos GC、et al : Selective nonoperative management in 1,856 patients with abdominal gunshot wounds : should routine laparotomy still be the standard of care?. Ann Surg 2001 ; 234 : 395 – 402 ;discussion 402 – 403.
2)Navsaria PH、et al : Selective nonoperative management in 1106 patients with abdominal gunshot wounds : conclusions on safety、efficacy、and the role of selective CT imaging in a prospective single-center study. Ann Surg 2015 ; 261 : 760 – 764.
3)Demetriades D、et al : Gunshot wound of the abdomen : role of selective conservative management. Br J Surg 1991 ; 78 : 220 – 222.
4)Demetriades D、et al : Selective nonoperative management of gunshot wounds of the anterior abdomen.Arch Surg 1997 ; 132 : 178 – 183.
5)DuBose J、et al : Selective non-operative management of solid organ injury following abdominal gunshot wounds.Injury 2007 ; 38 : 1084 – 1090.
6)Fikry K、et al : Successful selective nonoperative management of abdominal gunshot wounds despite low penetrating trauma volumes.Arch Surg 2011 ; 146 : 528 – 532.
7)Como JJ、et al : Practice management guidelines for selective nonoperative management of penetrating abdominal trauma. J Trauma 2010 ; 68 : 721 – 733.
8)Renz BM, et al : Gunshot wounds to the right thoracoabdomen : a prospective study of nonoperative management. J Trauma 1994 ; 37 : 737 – 744.
9)Renz BM, et al : Unnecessary laparotomies for trauma : a prospective study of morbidity. J Trauma 1995 ; 38 : 350 – 356.
10)Chmielewski GW、et al : Nonoperative management of gunshot wounds of the abdomen. Am Surg 1995 ; 61 : 665 – 668.

【側腹部および背部銃創】

 側腹部および背部銃創は、厚い筋群および後腹膜組織のため前腹部や胸腹部にくらべて重症な損傷となる 可能性が低い.しかし後腹膜臓器損傷を理学所見や FAST で評価することが難しい.バイタルが安定して いる場合は CT が有用である 2)3).

【胸腹部銃創】

 胸腹部領域は乳頭から肋骨下縁までの間の 360 度全域であり、胸腹部領域の銃創は、横隔膜を含め胸腔、 腹腔ともに損傷し得る.循環動態が不安定な場合は胸腔腹腔のどちらから行うかは選択に迷うが 2)、瀕死状態の時(血圧 60 以下)は、蘇生的開胸を行う 3).
 胸腔もしくは腹腔のどちらから手術を行うかの選択に際し、X 線撮影、FAST、胸腔ドレーンをもとに 判断する.クリップなどを用いて銃創のマーキングし胸腹部 X 線撮影を行えば、弾道を推測することがで きる(経縦隔もしくは経横隔膜).また FAST により胸腔、心嚢、腹腔の血液貯留の有無を検索できる. 胸腔ドレーンは血胸に対する治療になり得るが、挿入後初期の大量出血(> 1,500 ml)や持続的な出血(>200ml/hr)は開胸術の適応である.
 著明な心嚢液貯留は心損傷を示唆するため、一般的に胸骨正中切開もしくは前側方開胸を行わなければ ならない.
 血胸または気胸を伴うすべての胸腹部銃創は横隔膜損傷を起こすと考えられ、右側は肝臓に保護されて いる影響のため、左側の方が損傷し得る.鈍的な横隔膜損傷は診断が比較的容易であるが、鋭的外傷はさ らに困難である.
 正常な胸部 X 線撮影のみでは横隔膜損傷は除外できず 4), CT での検出にも限界を認める 5).近年は胸腔 鏡もしくは腹腔鏡で直視下に横隔膜を観察することが提案されており、いくつもの文献によりその精度が 高いことが立証され、鏡視下の修復を報告している 4)6)ー10).胸腔鏡で横隔膜損傷の評価する際には残存する血胸の除去も可能となる.

1)Biffl WL, et al : Management guidelines for penetrating abdominal trauma.World J Surg 2015 ; 39 :1373 – 1380.
2)Berg RJ、et al : The persistent diagnostic challenge of thoracoabdominal stab wounds. J Trauma Acute Care Surg 2014 ; 76 : 418 – 423.
3)Burlew CC、et al : Western Trauma Association critical decisions in trauma : resuscitative thoracotomy. J Trauma Acute Care Surg 2012 ; 73 : 1359 – 1363.
4)Murray JA、et al : Occult injuries to the diaphragm : prospective evaluation of laparoscopy in penetrating injuries to the left lower chest. J Am Coll Surg 1998 ; 187 : 626 – 630.
5)Shanmuganathan K、et al : Penetrating torso trauma : triple-contrast helical CT in peritoneal violation and organ injury–a prospective study in 200 patients. Radiology 2004 ; 231 : 775 – 784.
6)Demetriades D、et al : Selective nonoperative management of penetrating abdominal solid organ injuries. Ann Surg 2006 ; 244 : 620 – 628.
7)Powell BS、et al : Diagnostic laparoscopy for the evaluation of occult diaphragmatic injury following penetrating thoracoabdominal trauma.Injury 2008 ; 39 : 530 – 534.
8)FrieseRS、et al : Laparoscopy is sufficient to exclude occult diaphragm injury after penetrating abdominal trauma. J Trauma 2005 ; 58 : 789 – 792.
9)Zantut LF、et al : Diagnostic and therapeutic laparoscopy for penetrating abdominal trauma : a multicenter experience. J Trauma 1997 ; 42 : 825 – 829 ; discussion 829 – 831.
10)Ertekin C、et al : The use of laparoscopy as a primary diagnostic and therapeutic method in penetrating wounds of lower thoracal region. Surg Laparosc Endosc 1998 ; 8 : 26 – 29.

【各臓器損傷】

1.肝損傷 1)
 循環動態が不安定であれば perihepatic packing を考慮するが、穿通創内からの圧迫止血法も報告されて いる.自作バルーンカテーテル留置に始まり 2)、尿バルーンカテーテル 3)や S-B チューブを用いたバル – ン圧迫方が代表である 4)5).

2. 後腹膜損傷
後腹膜は 3 つの Zone に分類される(Zone I ; 後腹膜正中、Zone II ; 側面、Zone III ; 骨盤内).鈍的外 傷と異なり銃創の場合、開腹時所見で血腫が存在した場合は、すべての Zone において開創を行う.

3. 腹腔内大腸損傷 1)
腹膜炎を伴わず、虚血を認めない周径 50%以下である大腸損傷は、安全に primary repair 可能である 2)ー7).周径 50%以上または虚血を伴う大腸損傷は4つの条件を満たす場合(循環動態安定、重大な基礎疾患 がない、他の損傷が最小限[ISS<25]、腹膜炎ではない)には、切除ののち primary anastomosis 可能で ある 3)ー7).しかし条件を満たさない場合は、切除ののち colostomy とする.結腸や直腸外傷に対して増設した colostomy は、肛門側の治癒を注腸造影で確認したうえで 2 週間以内 に閉鎖する 8).早期閉鎖は技術的に手術を容易にし、手術時間の短縮と術中出血量の減少となる.し かし腸管の治癒がなされていない場合や、創感染継続、循環動態不安定な場合は行うべきではない.

1)Cayten CG、et al : PATIENT MANAGEMENT GUIDELINES FOR PENETRATING INTRAPERITONEAL COLON INJURIES ; EAST Practice Parameter Workgroup for Penetrating Colon Injury Management. 1998.
2)Stone HH, et al : Management of perforating colon trauma : randomization between primary closure and exteriorization. Ann Surg 1979 ; 190 : 430 – 436.
3)Chappuis CW、et al : Management of penetrating colon injuries. A prospective randomized trial. Ann Surg 1991 ; 213 : 492 – 497 ; discussion 497 – 498.
4)Falcone RE、et al : Colorectal trauma : primary repair or anastomosis with intracolonic bypass vs. ostomy. Dis Colon Rectum 1992 ; 35 : 957 – 963.
5)Sasaki LS、et al : Primary repair of colon injuries : a prospective randomized study. J Trauma 1995 ; 39 : 895 – 901.
6)Gonzalez RP、et al : Colostomy in penetrating colon injury : is it necessary?. J Trauma 1996 ;41 : 271 – 275.
7)George SM Jr、et al : Primary repair of colon wounds. A prospective trial in nonselected patients. Ann Surg 1989 ; 209 : 728 – 733 ; discussion 733 – 734.
8)Velmahos GC、et al : Early closure of colostomies in trauma patients–a prospective randomized trial. Surgery 1995 ; 118 : 815 – 820.

4. 腹腔外直腸損傷 1)
 腹膜外直腸損傷に対して近位部での人工肛門を薦めている.また慣習的な仙骨ドレナージおよび遠位部 直腸洗浄は薦めていない.

【予防的抗菌薬投与】

 すべての腹部穿通性外傷患者に対して、術前に好気および嫌気ともにカバーする広域の広域抗菌薬を単 回投与する.腸管損傷を認めた場合は、24 時間以内の投与を薦め、認めない場合には追加投与は必要ない. 出血性ショックを認める患者に対しては、10 単位の輸血ごとに 2 – 3 倍量の抗菌剤を必要とするかもしれ ない.
 24 時間をこえた投与を支持するデータはなく、open abdomen の際の使用を支持するデータもない.大 腸損傷を伴った場合は、抗生剤使用期間にかかわらず SSI は高い 1)2).

角山泰一朗

四肢の処置

【ターニケット使用の適応と解除方法】

 局所圧迫でも活動性出血をコントロールできない場合には出血部位の近位にターニケットを使用する 1)2). 初療室で循環動態不安定な活動性出血を伴う症例には必ず使用する(図IIー7ー1 ※).使用した場合には必 ず開始時間を記載する.不十分な緊縛は出血を助長するので十分な圧で駆血する.被災現場で医師や救急 隊によりターニケットを使用された場合には、相応の出血があったと考え Hard sign 陽性症例として扱う. 使用したターニケットは手術室、もしくはそれに準ずる環境で損傷血管をクランプした後に解除する.

【四肢血管損傷の身体所見】

 四肢血管損傷を疑う身体所見として Hard sign と Soft sign を参考とする 1)2).

 Hard sing とは、

-動脈拍動の消失 or 減弱
-大量の外出血
-血腫の増大 or 拍動性の血腫
-thrill or 血管雑音
-虚血症状の 5P(疼痛、蒼白、冷感、知覚異常、運動麻痺)

 Soft sign とは、

-現場での一時的血腫
-血管近傍の損傷
-血管近傍の血腫
-血管近傍の神経損傷
-説明のつかない低血圧

である.Hard sign が一つでも陽性であると、90% 以上の確率で血管損傷があるとされる 3).

1)Practice Management Guidelines for Penetrating Trauma to the Lower Extremity.Practice parameter for evaluation and management of combined arterial and skeletal extremity injury from penetrating trauma.EAST 2002.
2)Fox N、et al:Evaluation and management of penetrating lower extremity arterial trauma : An Eastern Association for the Surgery of Trauma practice management guideline.J Trauma Acute Care Surg 2012 ; 73 : S315 – S320.
3)Mavrogenis AF、et al : Vascular injury in orthopedic trauma. Orthopedics 2016 ; 39 : 249 – 259.

【CTA での血管損傷所見】

 CTA での血管外漏出像、血栓形成、動脈瘤、動静脈瘻、内膜損傷は血管損傷と判断する 1).ただし、動脈瘤、 動静脈瘻、内膜損傷の一部には末梢血流が保たれるものがあり、その場合には慎重な判断を要する 2).血 行再建を行わないと判断した場合には、経時的に arterial-pressure index(API)もしくは Anckle-Bracial index(ABI)を計測する 1)2).血管攣縮と判断された場合には血管損傷はなしとする.

【temporary vascular shunt tubes(TVSTs)の使用基準】

 血管損傷のある症例には原則全例に使用する 1)ー3).動静脈損傷のある症例では動脈に先立ち静脈 1 – 2 本に TVSTs を使用する 4).温阻血時間が短く即座に動脈再建が行える状況であれば TVSTs を省略してもよい.

1)Practice Management Guidelines for Penetrating Trauma to the Lower Extremity.Practice parameter for evaluation and management of combined arterial and skeletal extremity injury from penetrating trauma.EAST 2002.
2)Fox N、et al:Evaluation and management of penetrating lower extremity arterial trauma : An Eastern Association for the Surgery of Trauma practice management guideline.J Trauma Acute Care Surg 2012 ; 73 : S315 – S320.
3)Halvorson JJ、et al : Vascular injury associated with extremity trauma : Initial diagnosis and management.J Am Acad Orthop Surg 2011 ; 19 : 495 – 504.
4)Practice Management Guidelines for Penetrating Trauma to the Lower Extremity.Practice management guideline for evaluation and management of lower extremity venous injury from penetration trauma.EAST 2002.

【血行再建の手術】

 銃創・爆傷は汚染創であるため感染率が高い 1)ことから、血行再建は自家静脈移植を原則とする.手術 手技を誰が行うかは、それぞれの病院の実情にそって各病院で事前に決定しておく.アルゴリズムの各手 技に「救急医」「整形外科」「血管外科」などと書き込んで(もしくは丸をして選んで)用意しておくとよい.

1)Dougherty PJ 、et al : Gunshot and wartime injuries. Rockwood and Green’s Fractures in adults. 8th ed.Philadelphia PA : Wolters Kiuwer Health, 2015 : 397 – 426.

【銃創・爆傷の手術】

 銃創・爆傷は汚染創であり 1)、原則手術室で十分なデブリードマンを行う.弾丸はすべてを取り除くこ とを原則とするが、手術的に到達が難しい部位にあるものは摘出不能なこともある.関節内の弾丸は鉛中 毒や鉛関節症の発生が危惧されるためにすべて取り除く 1).骨・軟部組織のデブリードマンが十分と判 断すれば骨折に対する内固定を一期的に行ってもよい.しかし、初期治療ではその判断が難しく創外固 定(external fixator : EF)を用いる方が無難である 2).十分なデブリードマンが行われた場合には生じた 組織欠損に陰圧閉鎖療法(negative pressure wound therapy:NPWT)を考慮してよい.ただし血管の直 上では NPWT を使用しない.

1)Dougherty PJ 、et al : Gunshot and wartime injuries. Rockwood and Green’s Fractures in adults. 8th ed.Philadelphia PA : Wolters Kiuwer Health, 2015 : 397 – 426.
2)Practice Management Guidelines for Penetrating Trauma to the Lower Extremity.Practice parameter for evaluation and management of combined arterial and skeletal extremity injury from penetrating trauma.EAST 2002.

【術後管理】

 銃創・爆傷は高エネルギー外傷であり、コンパートメント症候群などの発生などに注意しながら術後 ICU 管理を行うことが望ましい 1)2).

1)Practice Management Guidelines for Penetrating Trauma to the Lower Extremity.Practice parameter for evaluation and management of combined arterial and skeletal extremity injury from penetrating trauma.EAST 2002.
2)Fox N、et al:Evaluation and management of penetrating lower extremity arterial trauma : An Eastern Association for the Surgery of Trauma practice management guideline.J Trauma Acute Care Surg 2012 ; 73 : S315 – S320.

黒住 健人


銃創・爆傷対応各論に戻る