爆傷患者に対する初期診療の重要事項

図3-3 SALT トリアージ 1)

図3-4 爆傷患者に対する初期診療手順 Primary Survey

 現在、爆傷のマネージメントに関し開示されたガイドラインはないため、本章では主に米国CDCによる
essential fact ならびにfact sheetをもとにしたものを示す。診療手順に関してはJATECのprimary survey,secondary survey をもとに爆傷の特徴を考慮したものを示す.

The Centers for Disease Control and Prevention.Blast Injuries : Fact Sheets for Professionals. http://www.calhospitalprepare.org/sites/main/files/file-attachments/blast_fact_sheet_professionals-a.pdf(Accessed April. 5. 2018)
American College of Emergency Physicians. Bombings : Injury Patterns and Care. Blast Injuries : Fact Sheets for Professionals by Centers for Disease Control & Prevention.https://www.acep.org/blastinjury/#sm.00001hlkgl9nydrytc81v5u8a2qz2(Accessed April. 5. 2018)

目次

損傷機序

受傷部位による損傷形態

病院での受け入れ

JATECにもとづく爆傷診療手順

爆傷診療上の注意点(tertiary surveyを含む)

損傷機序

爆傷は その機序により一般的に1 次から4次に分類される(図 3-1、表 3-1).

1次爆傷は爆発に伴う圧力波 blast pressure wave により生じる特徴的な損傷であり、とくに内部にair を有する臓器(肺、腸管)や器官(中耳、内耳)に損傷が生じやすい.爆発地点から近いところにいた場合や、室内や車内といった閉鎖空間での爆発により発生しやすい.

2次爆傷は飛散物が当たることによる損傷で、爆発物の自体の破片や爆発物に仕込まれた釘やベアリング、周囲の物体破片などによる穿通性損傷と、吹き飛んだ大きな物体による鈍的損傷が生じる.

3次爆傷は人自体が爆風で飛ばされて、地面や建物などに叩きつけられたり、倒壊した建物等の下敷きになり生じる.

4次爆傷はそれ以外の損傷として、熱傷や中毒、dirty bomb による放射線曝露などが該当する。なお基礎疾患の應化や精神的影響などを5次損傷とする分類もある.

図 3-1 爆傷の機序分類

閉鎖空間(室内、車内)での爆発は威力増す。 仕込まれた釘やベアリングが殺傷力を増す。

表 3-1 機序と損傷形態

  特徴 損傷部位 損傷形態
1次 爆圧による臓器損傷 ガスのある部位:
肺、消化管、中耳
鼓膜破裂、爆傷肺、消化管穿孔、空気塞栓(脳、心、腸間膜)、
外傷性脳損傷(TB )、(四肢切断)
2次 飛来物による損傷 全身 穿通性損傷:破片や仕込まれたベアリング、釘等、軟部組織損傷
鈍的損傷 :飛んできた大きな物体
3次 爆風による吹き飛ばされ 全身 地面に落下もしくは壁等に叩きつけられる。骨折、四肢切断、鈍的損傷
4次 1~3次損傷以外の損傷 全身 熱傷、クラッシュ、外傷性窒息、呼吸器症状(喘息、COPD増悪)、
狭心症、高血圧、高血糖

•多くは通常の穿通性外傷や鈍的外傷と同様
•爆圧波(b ast pressure wave)による損傷は特異的
•爆圧波は空気の存在する部位(air-tissue interface:空気と組織が接する)、肺、消化管、中耳に最も損傷を与える。

受傷部位による損傷形態

 爆傷による受傷部位別の損傷形態を示す(図 3-2)。前述した爆傷の機序により全身の臓器や器官に損傷が生じうる。特徴的な損傷部位として内部に空気を有する(air-tissue surface)臓器や器官である、肺、腸管、鼓膜をはじめとする聴覚器があり、重点的に評価する。生存症例で最も多い損傷形態は飛来異物による穿通性外傷と爆風による鈍的外傷である.爆傷により当初生存していた症例の主な死亡原因は爆傷肺,ついで消化器損傷による。閉鎖空間での爆発や建物等の崩壊を伴っている場合は 症例が増加する.
 生存者の10%程度は眼球異物による損傷の可能性がある.鼓膜損傷を認めた場合、高率に肺損傷を合併するとの報告もあったが、現在では必ずしも相関しないとされ、肺損傷の可能性を常に考慮しながら診療にあたる.

図 3-2 受傷部位と損傷形態
内部に空気の存在する内耳、肺、腸管に最も影響を及ぼす。

病院での受け入れ

 過去に海外で発生した爆弾テロでは、ほとんどの場合、正確な情報が得られる前、早ければ発生後15分以内に負傷者が来院している(マドリッド、ムンバイ、ロンドンの事例).したがって病院に、爆傷が疑われる、もしくは受傷機転不明の傷病者が来院した場合は、今後の殺到(surge)を予想し直ちに必要な対応をとる.Surgeへの対応の要点をその英語の頭文字から5Sとする.

System 災害対応体制の起動 宣言、本部立ち上げ、院内周知
Security 保安 出入り口の制限と保安
Staff 人員招集 事前の取り決 に従い招集
Space 受け入れスペース確保 ER,手術室、ICU、一般病棟
Supply 物品の確保 診療材料、中央材料室、薬剤、輸血管理室

① System  災害対応体制の起動
爆傷が疑われる傷病者や受傷機転不明の傷病者が来院した場合、もしくは消防等から爆発事案発生の連絡があった場合、今後傷病者が殺到すること(surge)を予想し、直ちに災害対応体制の起動を宣言し、対策本部を立ち上げるとともに、適切な方法により院内各部署に連絡する.

② Security  保安:出入り口の制限と保安
テロにおいては病院が標的になったり、犯人側が負傷した仲間を奪還しようとして病院内に侵入することも考えられる。マスコミや野次馬が来院することもあるため、病院の出入り口を制限するとともに保安要員を配置し、病院職員以外の立ち入りを制限する.

③ Staff 人員招集
事前の取り決めに従い招集する。招集の優先順位は、Surge対応の初動で負荷のかかるER、手術室、ICUであるが、院外からの招集に時間がかかるため、院内他部署からの再配置や、前の勤務帯のスタッフに残ってもらい対応する(ロンドン、マドリッド、ボストンの事例).

④  Space 受け入れスペース確保
殺到する傷病者の診療スペース(ベッド)をER,手術室、ICUに確保する。ERでは現在いる患者の帰宅または入院、余剰スペースや1室1患者を2患者以上にする等の臨時増床により診療場所を確保する。手術室では新規手術の待機もしくは中止、ICUでは症患者用のベッドを確保する。一般病棟も帰宅可能者の退院前倒し等により空床を確保する.

⑤  Supply 物品の確保
病棟からのストレッチャー、移動用モニター、酸素ボンベと接続、マスク等を集める。創傷処置用の診療材料の手配(切開縫合機械、糸針、電気メス、被覆材)、中央材料室への補充と滅菌依頼、薬剤科や輸血管理室への情報提供を行う.

 爆発テロの現場では、救急隊によるトリアージを受けない軽症者が病院に自力で来院したり一般車両で運ばれ、その後重症例が搬送されてくる状況(“upside-down” triage、reverse triage)が発生する.また救急隊によるトリアージもオーバートリアージになる傾向がある(文献).したがって,医療機関は必ず病院入口で再度トリアージを行い、優先度の高い傷病者を選別する.
 爆発物テロを経験した病院における対応に関する教訓的項目を表3-2に示す.

表 3-2 爆発物テロに対応した病院からの教訓事項

初動3部門(救急部門、手術室、ICU)+2検査(放射線、血液)を早期に立ち上げる
警備担当は規制線の設定、出入り口制限、敷地内緊急車両動線の確保
除染エリアの設定
患者トリアージはER入り口の外で行う
歩いて来た負傷者は別エリアへ→状況により転送
患者登録:通常の方法(電子カルテ等)か、災害時の方法(電紙カルテ)か。
患者動線は交錯していないか(一方通行か)?
家族関係者、マスコミは診療エリアからある程度離した待機場所に誘導、適宜情報提供
重症患者には1患者-1チームを割り当て、ERを出るまでの治療経過を担当
リーダークラスの手術室看護師を手術調整のリエゾンとしてERに配置
検査部門は短時間で多数撮影、多数輸血を実施できる体制
身元不明者(含死亡)の登録:全員顔写真を撮影し所持品を記録する
テロ以外の患者は他院へ搬送するよう消防に依頼
事前に設定した対応能力と、その時点での対応能力(スタッフ数、ベッド数、手術室状況、 使用可能人工呼吸器台数)を比較し、収容可能な患者数の概数を算定
対応が限界に達した場合はトリアージのみ行い他院へ送るトリアージ病院となる

テロ災害における現場トリアージ
 現在わが国でも普及しているトリアージ法は START 変法であるが、その正診率の低さ、救命処置の不足、子供は対象外等の課題が指摘されている.米国ではこれらの点を改善し、全ての災害(all hazards)、全ての年齢(all populations)に使えることを目指したSALT トリアージが 2011年にCDC、医師会、学会、救急隊連盟、関連省庁等10団体共同で開発された1).最初に集団を迅速にグループ分けし、個別評価の冒頭に
 救命処置を位置づけるとともに、Expectant が設定されリソースにも配慮されている(図 3-3).

JATEC に基づく爆傷診療手順

 爆傷に対しても基本的にJATECの手法に準じるが、爆傷の特徴を考慮した診療手順(C-ABCDE)で行う.頭の「C」は危機出血( catastrophic bleeding )を意味し、死亡率が高い四肢血管損傷からの出血をまずはじめにコントローしたうえで、以降の診療を行う.また爆傷では早期に症状や所見が出現しにくい、もしくは把握しにくい損傷(肺、腸管、 器、眼)があるため、tertiary survey も確実に実施する(図3-4).

(1)受け入れ
 消防等からの事前情報や爆傷が疑われる傷病者の直接 院があれば「5S」を考慮した院内の体制を起動し、除染とトリアージを行った上で院内に誘導する.

(2)Primary survey

①第一印象
 「A・B・C・D・E の素早い 」を行う際に救急隊からの情報や損傷の状態から爆傷であるかどうかを判断し、危機的外出血の有無を確認する。間いかけに対する反応が不良であれば1次爆傷 による聴力障害の可能性も考慮する.

②C:危機的外出血の止血
 前述したように四肢血管損傷は死亡率が高い一方、タニケットにより迅速かつ容易にコントロールできる場合もある(この場合のタニケットは手術用のエアータニケットではなくCAT等の緊縛型既成品を用いる).したがってまず危機的外出血をきたしていたり、切断もしくは不全切断されている四肢を認めた場合は、タニケットを装着し止血する.病院前からタニケットが装着されている場合は確実に止血されているか確認し、出血が続いていれば中区側にタニケットを追加装着し止血する.
 頸部・腋嵩・鼠径等の圧迫止血困難な部位からの出血を認めた場合は、ただちに外科的止血術に移行する、もしくは鼠径部であれば圧迫止血しつつ対側からのREBOA zone3 留置による出血制御を行う.

③A:気道評価・確保と頚椎保護
 通常の観察・処置と同様に行う.呼吸困難感や血痰を認めれば爆傷肺を考慮する.補助換気、陽圧換気を行う場合は、爆傷肺での圧外傷 barotrauma による気胸、緊張性気胸の発生に注意する.3次損傷で飛ばされたり叩きつけられたりする際に頚椎を損傷する可能性があるので頚椎保護も実施する.

④B:爆傷肺を念頭に、呼吸評価と致命的な胸部外傷の処置
 通常の観察・処置と同様に行う.とくに爆傷では爆傷肺に伴う低酸素血症、緊張性気胸、フレイチェスト、開放性気胸を念頭に置く.酸素投与、SpO2モニター装着、呼吸数計測、胸部X線撮影を行い、挿管、陽圧換気、胸腔ドレナージなど必要な蘇生処置を行う.圧外傷barotrauma による気胸、緊張性気胸の発生にも注意する.

⑤C:循環評価および蘇生と止血
 通常の観察・処置と同様に行う.危機的外出血の止血部位を再確認するとともに、軟部組織からの外出血を圧迫止血する.

⑥D:生命を脅かす中区神経障害の評価
 通常の観察と同様に行うが、瞳孔所見を観察する際、眼損傷の有無に注意し、異物や眼球破裂が疑われる所見を認めた場合は無理に開眼させたり圧迫しないように注意する.また聴覚に異常を来たしている場合もあるため、筆談も考慮する.

⑦E:脱衣と体温管理
通常の観察・処置と 同様に行う.なおタニケットを装着している患肢は毛布等で覆うと隠されてしまい、遮断時間が長くなり過ぎたり再出血を見逃される危険があるため、原則覆わないでおく.

(3)Secondary survey
 Secondary survey は通常の観察・処置と同様に行うが、1次から 4 次まですべての機序が作用していると考え、それぞれで生じやすい損傷を念頭に置きながら全身隈なく診察する(表 3-3).

①切迫するDに対する頭部CT
 爆傷により「切迫するD」を認める際は全身に相応の衝撃を受けているものと考え、可能であれば頭部CT検査に併せて全身造影CT検査を行う.

②病歴聴取
 本人や救急隊からAMPLEに加え、爆発の状況、患者の受傷場所(爆発地点からの距離、車内や室内か、屋外か)、受傷状況(飛ばされ、狭まれ、下敷き、火災の有無)を聴取し、身体に受けた外力を推測する.

③頭部・顔面
 異物による眼損傷や眼球破裂が疑われる場合は圧迫を避けて保護し専門医の診察を受ける.耳鏡による鼓膜の観察を必ず行う.耳介に離断などの損傷を認める場合は他の臓器に1次爆傷を合併する場合が多いとも言われる.気道熱傷による嗄声にも注意する.

④胸部
 胸部X線で爆傷肺の所見を認めない場合であっても、状況として閉鎖空間や至近距離での受傷、臨床上爆傷肺を疑う所見(呼吸苦、血痰、SpO2 の低下)や他の重篤な損傷(四肢切断、耳介離断等)を認める場合はCT 検査で爆傷肺の診断を行う.

⑤腹部
 1次爆傷での腸管損傷による腹膜刺激症状、実質臓器損傷による腹腔内出血の増加に注意する.閉鎖空間や至近距離での受傷、爆傷肺や他の重篤な損傷(四肢切断、耳介離断等)を認める場合は造影CTで腹腔内臓器の評価を行うとともに、遅発性の腸管損傷(微小な穿孔や腸間膜損傷・空気塞栓による腸間膜虚血からの穿孔)にも注意する.

⑥四肢・軟部組織
 外傷性切断の止血確認、軟部組織損傷からの止血、血管損傷の確認、コンパートメント症候群の確認を行う.飛散物による軟部組織損傷では単純写真で異物のスクリーニングを行う.

⑦背面
 飛散物による軟部組織損傷を確認する.爆傷で脊椎骨折をきたしている場合もあるため、疑われる場合は flat lift 法で持ち上げて観察する.

⑧神経系
 「切迫するD」を認めず頭部CTを撮影していない場合は、この時点で頭部CT検査の要否を判断する.GCS14は全例、GCS15でも何らかの所見や症状があれば頭部CT検査を行う.ただし検査の緊急度は高くないため症度の高い患者の検査がすべて終了したあとに行う.

⑨創処置
 創傷は写真等によりすべて記録しておく.原則として異物は可能な限り除去するが、要する手間や侵襲度からすべてを除去できない場合は、大きいもの、血管に近いもの、関節腔内にあるものを優先的に除去していく.破傷風の予防、抗菌薬の投与を行う.

⑩FIXES
 挟まれ等の受傷機転があれば、尿の性状を確認し「ポートワイン尿」を認めればクラッシュ症候群を疑う.

表 3-3 爆傷患者に対する Secondary Survey

爆傷診療上の注意点(tertiary surveyを含む)

 爆傷では早期に症状や所見が出現しにくい、もしくは把握しにくい損傷(爆傷肺、腸管損傷、聴覚異常、眼症状)や、経過中に発生する空気塞栓症などあるため、tertiary survey も確実に実施しなければならない.
 爆傷が完全に否定できない場合は 4-6時間の経過観察、外来帰宅とする場合は受傷後48時間までの注意喚起を患者と家族に対して行う.
 医療従事者は放射射線や化学剤による二次汚染に留意する。院内に誘導する前に除染(脱衣と傷病者の放射線スクリーニング)を行うことが望ましい.

表 3-4 爆傷患者に対するtertiary survey を含む診療上の注意点

柳川洋一


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