Q1. 早食いの定義は? [Answer]
Q2. 早食いの人には肥満の人が多いと聞くが本当か? [Answer]
Q3. 早食いの人には肥満傾向にあるというが、早食い=大食いによるのではないか? [Answer]
Q4. 早食いは肥満のリスクか? [Answer]
Q5. 噛めなくなる原因は? [Answer]
Q6. 食べ物をよく噛めないと,栄養学的にみて不都合が生じるか? [Answer]
Q7. 早食いの習慣は、直すことができるのか? [Answer]
Q8. 「噛めない」ことと「早食い」との間には関連があるか? [Answer]
Q9. 噛むことに不自由を感じている人はどのくらいいるのか? [Answer]
Q10. 年をとると噛めなくなるのは本当か? [Answer]
Q11.「 噛めない」状態の是正を図るには、どうしたらよいか? [Answer]
Q12. 噛ミング30では「一口30回噛む」ことを推奨しているが、「30回」という回数は重要なのか? [Answer]
Q13. 早食い習慣を直すことは体重コントロールに有効なのか? [Answer]
Q14. 早食いと一口量の関係は? [Answer]




1.早食いの定義は?

 早食いについては、いろいろな研究でいろいろと定義されていますが、わが国では、国民健康栄養調査や、いくつかの疫学研究において、「食べる速さは?」という質問に対し、「かなり速い」、「やや速い」、「普通(ふつう)」、「やや遅い」、「かなり遅い」のいずれか一つを選ぶ質問により、食べる速さを評価しています。この質問の正確さを検証した研究では、女子学生に対しこの質問を行い、その女子学生の友人に、その女子学生の食べる速さを、同じ質問で客観的に評価した結果を比較しました。その結果、46%が完全に一致、一つ違いまで含めると93%まで一致しました。従って、この質問で定義される早食いとは、自分自身も、また周囲の人が見ても、食べる速さが速い人を指すことになります。その他にも、異なる被験者に、同一の試験食を食べさせて、試験食の食べる量と時間を計測することにより、食べる速さを評価する方法もありますが、実験室を必要とするような方法であり、まだ一般的な方法にはなっていません。

執筆者
丸山広達(愛媛大学大学院医学系研究科公衆衛生・健康医学)
佐藤眞一(千葉県衛生研究所)

2.早食いの人には肥満の人が多いと聞くが本当か?

 平成21年の国民健康栄養調査では、肥満度(やせ:BMI18.5未満、ふつう:BMI18.5以上25未満、肥満:BMI25以上)と食べる速さ(「食べる速さは?」という質問に対し、「かなり速い」・「やや速い」を「速い」、「普通(ふつう)」を「ふつう」、「やや遅い」・「かなり遅い」を「遅い」と再定義)との関係を調べています。その結果、男女とも肥満度が高い人ほど、食べる速さが「速い」人の割合が多く、「遅い」人の割合が少ないことが分かりました。この傾向は、わが国で実施された、いくつかの疫学研究でも同様に観察され、また学童においても同じく傾向がみられております。従って、早食いの人には肥満の人が多いというのは、多くの研究においても裏付けされていることになります。

執筆者
丸山広達(愛媛大学大学院医学系研究科公衆衛生・健康医学)
佐藤眞一(千葉県衛生研究所)

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3.早食いの人には肥満傾向にあるというが、早食い=大食いによるのではないか?

 摂食行動は、食事をとることにより生じる血糖値の濃度変化に応じて、視床下部にある満腹中枢と摂食中枢とでコントロールしています。食事をとり血糖値が増加することにより、満腹中枢が刺激され、摂食行動をやめ、逆にお腹が空き、血糖値が低下することにより、摂食中枢が刺激され、摂食行動を行います。早食いの場合、血糖値が増加し満腹中枢を刺激する前に、多くの食事を摂ることで、摂取エネルギーが高くなり、肥満につながっていると考えられています。いくつかの疫学研究では、食べる速さ(「食べる速さは?」という質問に対し、「かなり速い」、「やや速い」、「普通(ふつう)」、「やや遅い」、「かなり遅い」で評価)が速い人ほどエネルギー摂取量が多いことが報告されています。従って、早食いの人が大食いということは否定できません。またエネルギー摂取量が多いこと以外にも、早食いの人のほうが、肥満予防に効果的な総食物繊維摂取量が少ないことも報告されています。ただし、多くの疫学研究では、早食いによるエネルギー摂取量の影響を考慮しても、早食いと肥満との関連はなくならないため、早食いと肥満との関係を説明するメカニズムは、大食い(エネルギー摂取量が多い)以外にも考えられ、今後の研究成果が期待されます。

執筆者
丸山広達(愛媛大学大学院医学系研究科公衆衛生・健康医学)
佐藤眞一(千葉県衛生研究所)

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4.早食いは肥満のリスクか?

 早食い → 過剰摂取 → 肥満 となる可能性があると考えられています。
 肥満者を対象とした調査では、肥満者には、咀嚼回数が少なく摂食時間が短い「早食い」の者が多いという結果が得られています。
 食事をすると、血液の中のブドウ糖の濃度が上昇し、それが満腹感につながるといわれています。
 しかし、ブドウ糖の濃度が上昇するには、ある程度の時間が必要です。早食いでは、ブドウ糖の濃度が上昇して満腹感が得られる前に、食べ物を過剰に摂取してしまうのではないかと考えられています。

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5.噛めなくなる原因は?

 虫歯や歯周疾患などによって、歯の数が減ってしまうことや、唾液が減少してしまうことなどが原因であると考えられています。
 まず、歯の数についてですが、実際、歯が20本以下の者、あるいは義歯を使用している者では噛む機能が低下しているという報告があります。歯は、虫歯や歯周病によって失われます。失われた歯は、ブリッジを入れたり、義歯を入れたりして補います。しかし、義歯の噛む力(咬合力)は、もともとの自分の歯より小さいですので、しっかりと噛むことが難しくなってしまいます。
 また、年齢が増すにつれ、飲んでいるお薬の数が増える傾向があります。お薬の中には、副作用で唾液の分泌を少なくしてしまうものもあります。唾液が少なくなると、食べ物を口の中でひとまとまりにすることが難しくなるので、噛むこと(咀嚼)あるいは飲み込むこと(嚥下)に影響を与えることがあります。

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6.食べ物をよく噛めないと,栄養学的にみて不都合が生じるのか?

 加齢とともに歯が失われ,噛めない人が多くなることが国民健康・栄養調査ほか,多くの調査で報告されています。しかし,多くの場合,高齢者でも歯が残っている人では多くの場合,咀嚼(食べ物をよく噛んで砕いていき,唾液を分泌させて食べ物とよく混ぜ合わせ,のみ込めるようにすること)に問題はありません。
 歯が少ない人,食べ物がよく噛めない人は栄養摂取状況が悪いことが分かっています。食品摂取についてみると,平成16年国民健康・栄養調査の結果から,咀嚼に問題のある人は問題がない人と比較して,野菜・果実・乳類の摂取が少なく,逆に穀類が多いことが分かりました(『1. 何でもかんで食べることができる2. 一部かめない食べ物がある3. かめない食べ物が多い4. かんで食べることはできない』の4つの選択肢のうち,1を選択した人を咀嚼について『問題なし』と定義;図1左)。さらに新潟市での疫学調査結果から,歯の数が19本以下の人は20本以上ある人と比較して,野菜・魚介類の摂取量が少ないことが分かりました(図1右)。



 また栄養素摂取についてみると,平成16年国民健康・栄養調査の結果から,咀嚼に問題のある人は問題がない人と比較して,ミネラル・ビタミン類と食物繊維の摂取量が少なく,穀類エネルギーの摂取量が多いことが分かりました(図2左)。さらに新潟市での疫学調査結果から,歯の数が19本以下の人は20本以上ある人と比較して,タンパク質,ミネラル・ビタミン類の摂取量が少ないことが分かりました(図2右)。



このように「歯が少ないこと・食べ物をよく噛めないこと」が栄養摂取状況の悪化と関連していることは多くの疫学研究において裏付けられています。
 特定の食品・栄養素の過剰または欠乏は全身の健康状態に影響を与えます。野菜・魚介類(ビタミン・不飽和脂肪酸の供給源)の摂取不足は心臓病,心筋梗塞,高血圧症など心血管疾患のリスクを,また穀類エネルギーの過剰摂取は肥満,糖尿病のリスクを上昇させるとの報告があります。以上のことから,咬むことと栄養の関係について,「歯を失う→噛めなくなる→栄養摂取状況の悪化→全身健康状態の悪化」という流れが複数の研究者から提唱されています。

参考文献
日本歯科総合研究機構. 健康寿命を延ばす歯科保健医療,医歯薬出版,東京,第1版,2009: 104-111.
Yoshihara A, Watanabe R, Nishimuta M et al. The relationship between dietary intake and the number of teeth in elderly Japanese subjects. Gerodontology. 2005: 22: 211-218

執筆者
新潟大学大学院医歯学総合研究科 予防歯科学分野 岩崎正則
新潟大学大学院医歯学総合研究科 口腔保健学分野 葭原明弘

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7.早食いの習慣は、直すことができるのか?

 早食いという習慣について、これを直す行動について、(1)「取り組もうとする気になるかどうか」、と(2)「継続できるかどうか」、という2つの面から捉えてみる必要があります。
 (1)の「取り組もうとする気になるかどうか」については、特定保健指導の受診者を対象に、従来取り組んでいた保健指導に早食いの改善を促す保健指導を加えてみたところ、早食いの習慣を直す行動目標「ゆっくりよく噛むこと」を選んだ受診者は全体の3割近くでした[文献:安藤ら]。特定保健指導の受診者は、既に食生活や運動について何らかの取り組みを行っている人が多いと思われますので、早食いの是正は、取り組んでみようとする気持ちが比較的生じやすいと保健指導と考えられます。
 (2)の「継続できるかどうか」については、特定保健指導において、ゆっくりよく噛むことの重要性を指導して日々の咀嚼回数を記録してもったところ、概ね一口20回以上噛んでいた人たちは4分の1程度であったという報告があります[文献:森田ら(観音寺市)]。また「30回咀嚼」を3ヶ月間実践機した介入研究では、この実践が大変であった反面、研究終了後の評価では研究実施前よりはよく噛む習慣が定着していたこという報告があります[文献:柳澤ら]。また、知識提供型の介入よりも動機づけ効果に注目した介入のほうが習慣の実践に効果的であったという報告もあります[文献:岡&宗像]。
 以上をまとめますと、早食いの是正は比較的容易に取り組むことができる対策ですが、その継続は必ずしも容易ではないといえそうです。ただし、介入研究の数はあまり多くはありませんので、まだ確かなことはいえない段階にあり、今後さらに研究を進めていくことが必要です。

文献
・安藤雄一、石濱信之、古田美智子、橋本直子、城田圭子、大津孝彦、青山 旬、佐藤眞一、深井穫博、森田 学.地方自治体が実施する特定保健指導に早食い是正の行動目標を追加した介入研究の実施とプロセス評価.In:厚生労働科学研究費補助金循環器疾患等生活習慣病対策総合研究事業「口腔機能に応じた保健指導と肥満抑制やメタボリックシンドローム改善との関係についての研究」(研究代表者:安藤雄一)、平成22年度総括・分担研究報告書;2011.9-13.
・森田 学、木村年秀、古田美智子.「歯科保健指導が肥満に及ぼす効果 ―観音寺市における調査―」 分析結果.In:厚生労働科学研究費補助金循環器疾患等生活習慣病対策総合研究事業「口腔機能に応じた保健指導と肥満抑制やメタボリックシンドローム改善との関係についての研究」(研究代表者:安藤雄一).平成22年度総括・分担研究報告書;2011.15-29.
・柳澤繁孝、田川敏郎、草間幹夫、安藤雄一、神崎夕貴、山形純平、河野憲司、佐藤 忠、野口忠秀.咀嚼法の実践に関する事後アンケート調査結果.In:厚生労働科学研究費補助金循環器疾患等生活習慣病対策総合研究事業「メタボリックシンドロームの保健指導に歯科的な観点を導入することの効果に関する研究」(研究代表者:柳澤繁孝).
・岡美智代,宗像恒次.一人暮らしの女子学生のダイエット行動への動機づけ介入と知識提供介入の比較 自己効力感を中心として.看護研究1998;31(1):67-75.


執筆者
安藤雄一(国立保健医療科学院・生涯健康研究部)

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8.「噛めない」ことと「早食い」との間には関連があるのか?

 咀嚼に関する保健指導を行う場合、咀嚼の状況に問題があるか(「噛めない」状態)、或いは、「早食い」であるかによって指導内容は大きく異なってきますので、両者の関連について知っておくことは意義があると考えられます。
 30〜70歳代の成人を対象に咀嚼と早食いに関する自己評価(自覚)を尋ねて咀嚼状況と食べる速さの関連をみた研究結果【文献:安藤ら】によりますと、両者の関連は低いことがわかりました。なお両者と年齢との関連をみますと、高齢者になるほど「噛めない」と自覚している割合が高い反面、早食いの人は少ない傾向が認められました。
 また、平成21年国民健康・栄養調査では、高齢者(後期高齢者)において歯の喪失が進んだ人では早食いの割合が少ない傾向が認められました(図)【文献:H21健栄調報告】。このような傾向は他の疫学調査【文献:岩崎ら】でも確認されていますが、その機序として歯の喪失が進んで噛めなくなった分、その代償作用として食物を噛む時間と回数が多くなり、食べる速さも遅くなったものと考えられます。したがって、高齢者層では早食いよりも噛めないことを問題視する必要性が高いと考えられます。

文献
・安藤雄一、葭原明弘、伊藤加代子.早食いと咀嚼状況の関連 〜Web調査による検討〜.In:厚生労働科学研究費補助金循環器疾患等生活習慣病対策総合研究事業「口腔機能に応じた保健指導と肥満抑制やメタボリックシンドローム改善との関係についての研究」(研究代表者:安藤雄一).平成21年度総括・分担研究報告書;2010.39-50頁.
・厚生労働省.平成21年国民健康・栄養調査報告;2011.30頁.
・岩崎正則、葭原明弘、宮崎秀夫.成人期および高齢期における咀嚼回数と体格の関連.口腔衛生学会雑誌 2011;61(5):563-572.

執筆者
安藤雄一(国立保健医療科学院・生涯健康研究部)

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9.噛むことに不自由を感じている人はどのくらいいるのか?

 70歳以上の高齢者では、約半数が噛むことに不自由を感じているという報告があります。
 厚生労働省が行った、平成16年国民健康・栄養調査では、噛むことに不自由を感じているのは、40代では14.7%、50代男性では24.3%、60代男性では28.7%、70代男性では45.7%でした。

10.年をとると噛めなくなるのは本当か?

 年をとる → 歯の本数が減る → かめなくなる という可能性があります。
しかし、歯がたくさんある人は、年齢が増してもよく噛めているようです。
 厚生労働省のe-ヘルスネットには、年齢階級別における「何でもかんで食べることができる人」と「20歯以上の歯を持つ」人の割合を示すグラフが掲載されています。年齢が増すにつれて、「何でも噛んで食べることができる」と答える人の割合が少なくなっていますが、その理由は「歯が少ないから」 かもしれません。実際、歯が20本以上ある場合、75歳以上であっても約8割の人が「よく噛める」と答えています。

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11.「噛めない」状態の是正を図るには、どうしたらよいか?

 平成21年の国民健康・栄養調査結果によると、40歳代の国民の約10%が「何でも噛んで食べることはできない」と回答し、年代が上がるにつれてその割合は増加し、70歳以上では、約40%に達しています1)。
 この「噛めない」状態は、専門用語では、咀嚼障害とよばれています。咀嚼とは、「食べ物を取り込み、歯をはじめとした上下顎、頬、口唇、舌など咀嚼器官の協調運動によって、細かく粉砕し、唾液と混ぜ、嚥下に適した食塊を形成する」機能です。この咀嚼機能が歯など咀嚼に必要な器官の欠損や障害および不快症状、あるいは舌や口唇などの運動障害を起こしている状態が咀嚼障害であり、いわゆる「よく噛めない状態」となります。
 食べることはヒトが生命を維持するための基本的機能ですが、これを阻害する最も大きな要因は歯の喪失です2,3)。もちろんこの歯の喪失以外にも、むし歯や歯周病による症状によって咀嚼障害は引き起こされます。そのため、歯の喪失を歯科疾患の予防によって防ぐことが何より重要ですが、歯を喪失した状態であっても、義歯等の歯科治療によって咀嚼障害は回復されます。歯がない場合に義歯を装着しても、義歯そのものの不具合や残存している歯の症状によって、改善しない場合はありますが、義歯装着によって概ね60%の咀嚼障害は改善すると報告されています2)。
 歯・口の不快症状をどのくらいの国民が訴えているかというと、全国の成人1,030名を対象としたWeb調査の結果では、「噛み具合が気になる」者が36%、「痛みが気になる」28%、「歯が腫れてブヨブヨする(時々・いつも)」29%、「冷たいものや熱いものが歯にしみる(時々・いつも)」57%という高い割合が示されています4)。このような歯・口の症状と咀嚼能力の低下との関係をみると、70歳の高齢者512人を対象とした調査結果では、ピーナッツ、たくあん、堅焼き煎餅、からごはん、まぐろの刺身、うなぎの蒲焼きなど15食品について、「全て噛める群」と「噛めない食品がある群」とを比較した場合、「歯ぐきの腫れや痛み」がある者は、ない者に較べて2.5倍「噛めない」状態を引き起こし、「歯の動揺」で2倍、「唾液が少なく口が渇く」では3倍と報告され、個々の歯・口の症状が、咀嚼障害を引き起こす実態を示しています3)。
 さらに、このような症状と咀嚼障害による咀嚼回数の制限は、食品選択や栄養摂取に影響することも報告されるようになってきています3,5)。
 以上に示したように、「よく噛めない状態」を改善するには、歯科治療を受ける必要がある場合がほとんどですので、歯科受診を敬遠しないことが必要です。そして、日頃からむし歯や歯周病の予防に取り組むことと歯を失わないことが何より重要になります。

文献
1. 厚生労働省:平成21年国民健康・栄養調査報告, 2011年10月,
2. Fukai K, Takiguchi T, Ando Y, Aoyama H, Miyakawa Y, Ito G, Inoue M, Sasaki H: Critical tooth number without subjective dysphagia., Geriatr Gerontol Int. 2011;11(4):482-7.
3. 神森秀樹, 葭原明弘, 安藤雄一, 宮崎秀夫:健常高齢者における咀嚼能力が栄養摂取に及ぼす影響,口腔衛生会誌 2003;53:13-22.
4. 安藤雄一,深井穫博,石田智洋,大山篤:成人を対象とした歯科健診に対する住民のニーズと選好に関するWeb調査、厚生労働科学研究「歯科疾患等の需要予測および患者等の需要に基づく適正な歯科医師数に関する研究(H21ー医療ー一般ー015、主任研究者安藤雄一)」平成21年ー22年総合研究報告書,433-450, 2011年3月
5. Sheiham A, Steele J:Dose the condition of the mouth and teetn affect the ability to eat certain foods, nutrition and dietary intake and nutritional status among older people? Public Health Nutrition 2001; 4(3): 797-803.

執筆者
深井穫博(日本歯科医師会・地域保健委員会)

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12.噛ミング30では「一口30回噛む」ことを推奨しているが、「30回」という回数は重要なのか?

 口に入れた食べ物を多くの回数噛むことは、食べ物を十分に粉砕するとともに多量の唾液の分泌を促し、この結果、安全に飲み込むことが可能な“嚥下食塊”が形成されます。ピーナッツなどに代表される破砕性の食品を咀嚼する場合、咀嚼開始から25回位噛むと、粉砕されたピーナッツ食片の隙間に唾液が入り込んでまとまりの良い食塊が形成されることが知られております【文献1】。このようなまとまりの良い食塊を嚥下することは誤嚥を防ぐ意味でも重要です。また、数多く噛むことは早食いに比べて早期に“満腹感”が得られ、その結果、一回の食事で摂取する食べ物の総量が減少して肥満の予防に役立ちます。このように“一口で摂取した食べ物を数多く噛む”ということはいろいろな利点があり、この数多く噛むことを心がける目安として「一口30回噛む」という目標が提唱されております【文献2】。
 しかしながら、どんな場合でも一口30回噛まなければいけないのか?というと必ずしもそうではありません。私たちの日常の食生活では実に様々なタイプの食べ物が食べられています。プリンや茶碗蒸し、また絹ごしの豆腐などを食べる場合には歯による咀嚼はほとんど行われずに舌が食べ物を口蓋に押しつけて粉砕し、そしてそのまま嚥下に移行します【文献3】。このような咀嚼形態をとる食べ物を無理して「一口30回噛む」と言うことは苦痛以外の何者でもありません。また食事の際、常に“一口30回噛まなければいけない”と意識し続けることも、場合によっては楽しいはずの食事を難行・苦行にさせてしまう可能性があります。したがって、できるならば食事をしている人にほとんど意識させずに自然と一口の咀嚼回数が増える食事を心がけることが重要です。具体例としては、茹で野菜を食べる場合には“ゆで時間”を少なくしてやや硬い状態の野菜を食べると咀嚼回数は自然に増大します。また、丸かじりを避けて予め一口量分に小さく切り分けて供することや、食事の際、一口毎に箸やフォークを置くことなどを行うと一回の食事に要する咀嚼回数を無意識のうちに増大することができます。このようなちょっとした工夫を行うだけで自然に「噛む回数を増やす」ことができることを心に留めて置いてほしいと思います(鶴見大学、塩澤記)。

文献
1.R. M. Alexander. News of chew: the optimization of mastication. Nature 1998: 391(22): 329.
2.歯科保健と食育の在り方に関する検討会報告書「歯・口の健康と食育 〜噛ミング30をめざして〜」。2009:1-11.
3.E. Arai, Y. Yamada. Effects of texture of food on the masticatory process. Jpn. J. Oral Biol. 1993: 35: 312-322

執筆者
塩澤光一(鶴見大学歯学部生理学講座)

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13.早食い習慣を直すことは体重コントロールに有効なのか?

 早食いの人には肥満者が多いという傾向は幾つかの観察研究結果から明らかといえますので、早食いの習慣を改善することにより体重の抑制・コントロールが期待され、介入研究も行われてきました。
これらのうち、小3〜中3の肥満児とその母親を対象に毎月検診と「一口30 回噛んで,ゆっくり味わって食事をする」ことを特に指導した保健指導を月1 回、6 ヶ月間実施した研究では、一口あたりの咀嚼回数が20回以上に増えた群では肥満度が有意に減少したことが報告されています【文献:松田ら】。成人でも、咀嚼回数を30回その他に決め、これを毎食事に励行するという保健指導を行った結果、ある程度の体重減少効果が示されています【文献:石田、柳澤ら】。
 しかしながら、これらの有効性は、観察研究結果から得られた知見ほど確固たるものとはいえない状況です。
 介入研究の数そのものがまだ多くないので、今後の研究の発展が期待されます。
 また、早食いの定義が曖昧であるため【関連:FAQ丸山&佐藤】、介入内容も焦点が絞り切れていないとう面も影響している可能性があるため、これらの点も併せて検討していくことが望まれます。

文献
・松田秀人、高田和夫、浅井 寿、栗崎吉博、長嶋正實、町田元實、斎藤 滋、小児肥満解消セミナーにおける肥満度の改善と咀嚼回数の関係.日本咀嚼学会雑誌2000;10(1):35-40.
・石田貞代.褥婦への咀嚼指導がBMI 減少・健康への関心・不安緩和におよぼす効果.お茶の水医学雑誌2005;53(3):67-76.
・柳澤繁孝,田川俊郎,草間幹夫,河野憲司,花田信弘,安藤雄一,神崎夕貴,山形純平,佐藤 忠,野口忠秀.咀嚼法による体重コントロール効果に関する介入研究.平成20 年度厚生労働科学研究費補助金(循環器疾患等生活習慣病対策総合研究事業)報告書(研究代表者:柳澤繁孝),4-20頁,2009.

執筆者
安藤雄一(国立保健医療科学院・生涯健康研究部)

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14.早食いと一口量の関係は?

 早食いを食べる速さが速いことと捉えると、食べる速さとは何で決まるのでしょうか。食べるという過程を考えると、@食べ物を口に入れ、A噛んで、B飲みこんで次の食べ物を口に入れるという動作の繰り返しになります。つまり、@食べ物を口に入れる量(一口量)、A噛む回数、B飲みこんでから次に口に入れるまでの時間が、食べる速さに影響すると考えられます。
 食べる速さについて大学生51名を対象として調査したところ1)、食べる速さが速いと思っている人はおにぎり100g(コンビニのおにぎり1個)をすべて食べ終わるまでの時間が約2分であったのに対し、食べる速さがふつうあるいは遅いと思っている人は約4分でした。また、食べる速さが速いと思っている人は、そうでない人に比べ、一口量が約1.5倍、噛む回数が約100回少ないという結果でした。この調査では、飲みこんだらすぐに次に口に入れてもらったため、食べる速さとBの関係を今後明らかにする必要はありますが、食べる速さが速い(早食い)と自覚する人は、全体の食事時間が短く、これは@一口量が多い、A噛む回数が少ないことと関係していることが分かりました。

文献
江國大輔、古田美智子、入江浩一郎、東哲司、友藤孝明、森田学.生活習慣病予防対策とての食育に関する歯科的介入.平成22年度8020公募研究報告書.

執筆者
古田美智子(九州大学大学院歯学研究院)

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